天為ネット句会報2023年4月

 

天為インターネット句会2023年4月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <福永法弘同人会会長選 特選句>

しばらくは肘笠で行く花時雨              てつお

肘傘雨は、急に降ってきたために傘を被る暇もなく、肘で雨を避けるしかない雨。『源氏物語』の「須磨」の段に出てくる。「須磨」では暴風雨となったが、この句ではそこまでのことはないものの、花散らしの雨とはなっただろう。(法弘)

花を十分に楽しみたい気持ちが分かります。(春野)

肘笠で簡単に防がれる程度の「花時の雨」を上手く詠んでいる。(えいちょ)

手笠ではなくて肘笠。腕全体の存在感が仄かに示唆されて、自分の身体の一部の有り難さに気付いたことも隠されているようだ。(順一)

正明、尚

わさび田のからみて流る水の音             郁文

山葵田の水はまっすぐには流れない。横に行ったり斜めに行ったり。それを絡んでいると捉えたところが発見。「流る」は下二段活用で終止形となるため、「絡み流るる」とした方が良いかも。(法弘)

わさび田に入る流れの二つ三つ。(孝雄)

わさびを育てながら流れる山峡の水の様が眼に浮かびます(勢津子)

旭、正治

  <福永法弘同人会会長選 入選句>

花行脚もんぺの黒田杏子さま              西脇 はま子

高級和服を改造したモンペスタイルと全国行脚。黒田杏子さんへの追悼句。(法弘) 

東京の桜開花の日に逝かれた杏子様のご冥福を祈りつつ、鑑賞しました。(ユリ子)

お似合いでしたもんぺ姿。合掌(智子)

黒田杏子先生を悼みます。「行脚」と「もんぺ」はまさに黒田杏子先生。(孝雄)

花行脚は八重の桜草とも全国の桜を巡っているとも。浅春に亡くなった黒田杏子さんに「さま」と呼びかけてやさしい追悼句。(ゆかり)

季語が相応しくもんぺ姿の杏子先生が偲ばれます。(相・恵美子)

もんぺ姿がトレードマークの黒田杏子さん、『さま』の表記にも哀悼の気持ちが溢れています(律子)

芳彦

子を送り呉れしは誰ぞ春の月              永井 玲子

有り難いが、ちょっと不気味。<春月には妖怪ぬらりひょんが似合ふ>(法弘)。

春の月の柔らかい光が、送ってくれた人の好意を見守っている。(典子)

野遊びや電車ごっこの石切符              直子 

子供は遊びの天才。平べったい石を見つけて切符にしてしまう。(法弘)

アイディア勝ちですね。「石切符」。子供とは限らないかもしれませんが、「石切符」の巧妙さを思いました。(順一)

日記

春時雨女人高野の鎧坂                 鈴木 楓

室生寺の鎧坂はいわゆる「乱れ積み」の72段。女人高野という割りにはかなりの急坂だが、春の冷たい時雨の中を登り切るとそこには金堂があり、榧の一木造りの国宝「釈迦如来像」が安置されている。(法弘)

実単純化して景を描いていて、知恵やはからいのないところがいいと思いました(眞登美)

由紀子

雑草と野草の違ひ弥生尽                榑林 匠子

「名前を知っているのが野草、知らないのが雑草」というのが私の定義。(法弘)

言われてみればその通りで、生える場所によって嫌われたり好まれたり。人もそうかもしれない。季語にある春を惜しむ気持ちが、ため息を添えている。 (典子)

春を惜しみながらどこかに散歩して楽しんでいる景が伺える。草の峻別はなかなか難しいもの。(郁文)

醤油屋の樽の香りや水温む               井上 澄江

どこの醤油蔵でも当てはまるが、小豆島の金両醬油をふと思い出した。 (法弘)

春が来ると仕込みの始まる醤油の醸造蔵から木樽香りが・・・水温むの季語がぴったり。(美惠)

観音の十指春待つさくらいろ              斎川 玲奈

観音様も春を待望。指の色に着目。(法弘)

観音様の柔らかな指先を想像して気分はもう春?(博子)

花冷えや腰の据わらぬ死生観              てつお

誰もが必ず行く道とは言えど、なかなかにその覚悟は難しい。花冷えが身に堪える。(法弘)

泰山木

芽木走る西郷軍の敗走路                牧野 桂一

田原坂の戦いの決着は三月、木々に芽が色づく頃。西郷軍の敗走により武士の世が終わった。(法弘)

あの西南戦争の悲劇。なんで前途有為の若者たちが内戦で死ななければならなかったのか、クヤシイ思いが残ります。(志昴女)

あそこにもここにも学校桜咲く             土屋 香誉子

団塊の世代の子供で溢れかえっていた昭和30年代の日本。学校があちこちに急ごしらえで作られた。(法弘)

翁草思はず知らず饒舌に                榑林 匠子

俳句の鑑賞ではあまり引用しないが、花言葉というジャンルがある。翁草の花言葉の一つに「告げられぬ恋」がある。それと重ねると、この句は微苦笑を持って楽しめる。(法弘)

木洩れ日の竜隠庵の白椿                西脇 はま子

関口芭蕉庵は元々、竜隠庵と呼ばれていた。白椿が印象的。(法弘)

モナリザも焼いたビスキュイ春の昼           河野 伊葉

ビスキュイはビスケットの前身の硬い焼き菓子。とある春の昼、モナリザも焼いていたとは、心浮き立つ想像力。(法弘)

   <互 選 句>

からつぽのボンボニエール鳥帰る            木村 史子

おしゃれで味わい深い句。(孝雄)

皇室の引出物としてよく使われるボンボニエール。ボンボンがなくなり綺麗な器だけとなってしまった空気感と季語が呼応する。(ゆかり)

空になってもまた菓子鉢が一杯になるように、一年たてばまた渡鳥たちも戻って来る。取合せが新鮮。(博行)

鳥達が引いて寂しくなり、美しい器もからだけれど春が残りました。季語がいいなあと思います。(百り子)

眞登美、由紀子

蓬摘み日と風の香の満つる籠              岡部 博行

気持ちの良い春の一日、蓬のいい香りを思います。(美穂)

長閑なお句 中七がいいです(温子)

澄江

花冷の高野学僧下駄の音                俊真   

花冷えの静閑な空気に響く下駄の音。清らかな俳句です。(ユリ子)

冷えた空気のなか学僧の下駄の音が聞こえてくるようです(夏江)

陽子、史子   

エルキュール・ポアロの遅刻春の夢           泰山木

毎週水曜の夜9時からの「ポアロ」を楽しみにしている、ポアロファンです。(スカーレット)

名探偵君も夢見て遅刻!良いですね(早・恵美子)

かの名探偵の登場という状況が春の夢としては新鮮な素材で、遅刻、ということで本意にも合っているように感じました。(恭子)

戦前のカタカナ讀本鳥雲に               荒木 那智子

コロナ禍を乗り越え桜満開に              嶋田 夏江

今年の桜は特に美しかった、それはコロナを乗り越えたからでしょう、(貞郎)

パソコンもスリープに入る春眠よ            小髙 久丹子

真弓

春疾風山猫料理店に入る                スカーレット

ム、ム。ヤマネコの料理店、、、、注文が多いあそこかな?疾風が駆け抜ける。(志昴女)

久丹子、匠子

ピザとコーラで語りし未来風光る            宮川 陽子

玲子、はま子

水玉の市バス遅日の一日券               荒木 那智子

香誉子、史子、手鞠

飛花落花スラブ舞曲のホ短調              芥 ゆかり

上五の季語と中七下五がビタリと決まっています。季語が動かない句です。(たかほ)

ウクライナの悲しみをホ短調が物語っています。(博美)

由紀子、正明、玲子

久闊を叙せば招ばるる家桜               森山 ユリ子

家桜に重みをもたせている。(伊葉)

芳彦

蝌蚪の紐少しほどいてみたきかな            熊谷 佳久子

そんな気になります。(肇)

はま子

長生きはとても無理よと亀鳴けり            熊谷 佳久子

匠子

舞ふ桜わが余生なり思ひきり              齋藤 みつ子

澄江

南仏の笑ふ山へと七曲がり               武井 典子

ゆっくりと蛇行して登っていく情景が浮かんできます。(伊葉)

バケツ持て洗ふ馬の尾春の水              須田 真弓

上5が効いています。実際に馬の尾を洗っている景が見えてきます。(相・恵美子)

道代

木の芽風人差し指で振るタクト             森野 美穂

春の到来を喜んでいる様子が浮かび上がってきます。(光男)

卒業前のコーラスの練習だろうか、若い人達の溌溂とした姿が目に浮かぶ。季語の取合せが絶妙。(博行)

自然界の中で振る人差し指のタクト。身体全体でメロディーが表現できていますね(憲史)

さがみ野の春の匂の無人駅               佐藤 博子

そうなんです、無人駅のほうが春のにおいが満ちてるんですよね。(志昴女)

若草やおはやうだけの間柄               木村 史子

クールな関係? (眞五)

博嗣、澄江

フェミニズム溢れるほどにミモザ活け          森山 ユリ子

三月八日は国際女性デー、各国で贈られる花は異なるといいますが、たわわに咲き誇るミモザは活力があっていいですね。(スカーレット)

花言葉も沢山あるミモザ。上五中七が上手いですね。(たかほ)

溢れんばかりのミモザをさり気なく活けている。フェミニストの鏡です(憲史)

直子、久丹子、真弓

谷は緑チーズとパンと山羊の乳             土屋 尚

何度か行ったスイスの光景が目の前に広がり心地良い句。(佳久子)

スイスの情景が浮かびます。こんな所で余生を送りたい(憲史)

子規庵の偲ぶ根岸のしじみ汁              浅井 貞郎

芳彦

桜月夜ゆるり歩める夫を待つ              金子 正治

夜桜を見に老夫婦で出掛けたが、足腰の不自由な夫の歩みを待つ妻の姿が上手く描かれている。(えいちょ)

若い頃は夫のほうが早足だったのに、今はゆっくりと歩いている夫を待っている。桜月夜がいいですね。(佳久子)

ゆっくり歩いてくる理由は解らないけれど、桜月夜が年代を感じさせ夫婦がほのぼのとしています。(百り子)

玲奈、 道代

閼伽桶を持つ手に絡む白き蝶              中村 光男

祖先の御霊を象徴するかのような白蝶を配することにより、ありふれた彼岸の墓参を詩に昇華させた。(博行)

漢方に背番号あり春の風邪               泰山木

私も数種類の漢方薬呑んでいますが背番号とはすごい発想ですね(みつ子)

背番号と見たところが面白いです。(肇)

微熱があるのかちょっと気だるいとき、そういえば漢方薬には番号ついてるなぁとふと気づいてしまう俳味がいい。お大事に。(ゆかり)

那智子、勢津子、手鞠

花冷や五つこはぜの燻し銀               石川 由紀子

「五つこはぜの燻し銀」がなんとも懐かしい。(肇)

季語と銀の鈍い光が、あるいは気の進まない会合へ行くための花衣かもしれない、などと、ドラマを想像させる。(典子)

足袋のくすんだはぜは冷たくて、花冷えと響きあっていると思います。(博美)

亀鳴くや水子のすがる地蔵尊              原 道代

正治

何時の間に更地となりて犬ふぐり            荒川 勢津子

「何時の間に」と思う更地、ほんとうに良く見ますね。(ユリ子)

更地増えましたね(みつ子)

陽子、久丹子、尚、てつお

ポケットの中の手繋ぎスイトピー            中川 手鞠

「ポケットの中の手つなぎ」に子どもの姿が良く描かれている。(桂一)

遺品めく一書の序文字鷹鳩に              牧野 桂一

平凡といふ日の幸や小米花               鈴木 楓

春を告げるようにポチポツと咲き始めると散歩も楽しくなります。この平凡な幸せがいつまでも続きますように。(スカーレット)

新芽と共に多数の白の五弁花が並び咲く。えくぼが勢ぞろいしたように幸多き花。(茂喜)

夏江

はくれんとひねもす遊ぶ鳥の影             竹田 正明

玲奈

それぞれに場所を心得え浮氷              武井 典子

湖でしょうか池でしょうか 解け始めた氷「場所を心得」お上手です。 (美惠)

初蝶の胸を反らせて舞ひ立てり             今井 温子

とても惹かれた句です。けなげな初蝶に元気をいただけます。(美穂)

中七が素晴しい。(光男)

孵化したての生命力にあふれた蝶を思います。(春野)

泰山木

野遊びや女組男組と呼びあひて             佐藤 博子

香誉子

銘仙の母のお手玉養花天                石川 由紀子

銘仙と養花天なつかしく感じました(みつ子)

立哉、正治

花ひとひら窓の隙より乗車せり             佐藤 律子

直子、眞五

死に近き母の寝顔に花吹雪               冨士原 博美

さぞや美しい寝顔でしょう、(貞郎)

一村の住民すべて桜守                 金子 肇

村民の桜を愛でる様子がみえます(智子)

村中の人が桜守だなんて、素晴らしい。(佳久子)

村の生活の中心に桜の大木があり、四季の移ろいを大切に暮らす様子までも想像させる(律子)

香誉子、直子、たかほ、泰山木、匠子、てつお

あたたかや明の赤絵の花鳥紋              斎川 玲奈

明の赤絵と季語がぴったし(温子)

眞登美

錆び初むる白木蓮に雲の影               相沢 恵美子

枝先の白い花がすべて空を仰ぎ咲く。大きな雲影が渡れば、白に錆が入ったようだ。(茂喜)

鷹鳩と化し優勝旗我が国に               えいちょ

確かに強豪チームが鳩のように?(眞五)

博嗣

暗君の世に三名や四月馬鹿               山根 眞五

四月馬鹿が気に入りました。代表的な三名以外にも私から見た馬鹿が未だまだいます。(郁文)

太白を梢に止め夕桜                  浅井 貞郎

太白と夕桜の取り合わせが効いていて格調高く詠まれています。(相・恵美子)

鶯のまた来てしばし聴く朝               片山 孝子

同じ鶯?違う鶯?何はともあれ優雅な朝のひととき。嬉しさが伝わってきました。(博子)

カヤックのパドル交互に風光る             芥 ゆかり

パドルが煌めいている様子が上手く捉えられている。(光男)

夏江

万葉の歌碑に遊べる鹿の子かな             今井 温子

高岡市や一宮市とかそれこそ日本全国に有るでしょうが、万葉歌碑の傍で遊ぶ鹿の子が居たとは。改めて言葉にされた場合の清新さに驚きを禁じ得ません。(順一)

三月のまだ残りある定期券               永井 玲子

卒業を控えた学生?暗示めいた句づくりで三月が浮き立ってます。 (郁文)

例えば卒業式が終わって、数日間、定期券の期限がある、という宙ぶらりんの状態に春愁を感じます。(恭子)

庭園めく松を真中の苗木市               須田 真弓

孝子

田の神は桜一樹を天蓋に                小栗 百り子

てつお、日記

亀鳴くや眉墨を濃く旅役者               相沢 恵美子

史子

黒髪の長さ競ひぬ雛の客                明隅 礼子

立哉

花吹雪歯医者の窓は落ち着かず             スカーレット

治療中は花どころでないそんな気持ちがよく表れている。(伊葉)

日記

煩悩は月の重力夕ざくら                野口 日記

煩悩を月の重力を詩たことに感じました(温子)

坊様のぬくみ残りし座布しまふ             嶋田 夏江

陽子

メビウスも知恵の輪もあり蝌蚪の紐           中村 光男

蝌蚪の紐を「メビウスの輪」と比喩した詠い方は、若い時にマジックを楽しんだ私にとってとても親しい感じがして選ばせて貰いました。(えいちょ)

蝌蚪の紐のぐにゃぐにゃ複雑な感じが良く出ています。(春野)

博美、玲子、那智子、手鞠

いつも帰る家ゆゑ菫など育て              町田 博嗣

菫という花からも日々丁寧に暮らす姿が浮かびました(律子)

菫、というところに、何気ない日常の幸せの大切さを知る方、と思います。(恭子)

手もみして母のいた日の大火鉢             俊真

情景が見えます。季語の斡旋が上手です(早・恵美子)

孝子、博嗣

空と海繋げて光る春北斗                日根 美惠

美しく夜空を飾る春の北斗七星素晴らしい一句(貞郎)

啓蟄や地下に「めしや」の長暖簾            たかほ

地下の飯屋と啓蟄の関係が生きている。最初はややつきすぎのようにも感じたが、長暖簾で離れることができた。(桂一)

めしや と季語の取り合わせが上手です(早・恵美子)

我が町に我が町の句碑桜かな              森野 美穂

四季折々の季語のある桜なので、町の句碑にも詠まれていることでしょう?郷土愛を感じます。(博子)

空の下花にら、菫、犬ふぐり              上脇 立哉

正明

鳥の巣を見てゐる人が入れ替わり            たかほ

孝子、立哉、はま子

発条仕掛歩くペンギン万愚節              金子 正治

発条で動くペンギンといわれてみるとありそうで面白い。四月馬鹿の受けも上々。(桂一)

いつの間に縄跳びできて卒園す             直子 

広場で幼子が何回も縄跳びを繰り返す。新学期は一年生だ。母は顔じゅうの笑み。(茂喜)

可愛いです「縄跳び」が素晴らしい! (美惠)

子供の成長に拍手です(智子)

道代、玲奈

春愁の一筆箋の「かしこ」かな             合田 憲史

勢津子

鷹鳩と化しかごめかごめの輪の中に           中川 手鞠

不思議なかごめかごめの歌詞。その輪の中に座る鬼は鳩になった鷹?幻想的な感じが春です。(百り子)

味わい深い句だと思いました。(美穂)

真弓、那智子

以上


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