天為ネット句会報2023年5月
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
また互選句は句稿番号順に並べております。
抽斗にペーパーナイフ昭和の日 泰山木
封筒や書籍の頁を切り開くためのペーパーナイフ。しかし、最近は使う機会がぐんと減ってしまった。作者は抽斗に入れたままになっているペーパーナイフにふと気づき、それを頻繁に使った頃に思いを馳せたのであろう。「昭和の日」という季語は、そのような読みに導くところがある(傳)。
懐かしき良き時代・・ペーパーナイフが郷愁を誘います。(美穂)
過去の残滓なのか、新しく買ったものなのか。昭和の日と言う季語が示唆的で、嘗ての昭和天皇誕生日なので、これも組み合わせの妙味なのかもしれません(順一)
時間がゆっくりと流れた時代。「ペーパーナイフ」に父の影が重なります。(博子)
百り子
奥吉野名残りの花を吹き上げて 斎川 玲奈
吉野山の桜は山裾から下千本、中千本、上千本、奥千本と呼ばれ、咲く時期を異にして長い期間楽しめる。掲句はその吉野山のその年最後の見納めの花の散るさまを見て感慨にふけっているのである(傳)。
楓
遠野火や一気に暮るる阿蘇五岳 牧野 桂一
「一気に暮るる」の措辞が遠野火と呼応し、早春の阿蘇の夕景を大きく広角で描いている。(博行)
中七の「一気に暮るる」が阿蘇山の大景を詠うのに相応しい表現であり、熊本県に住んだ経験を持つ私には印象的に思えました。(えいちょ)
雄大なる阿蘇の風景が目に浮かびます。一気に暮るるが阿蘇山の雄大さを強調しています。(郁文)
阿蘇の野火を思い出す。「一気に暮るる」がいいです。(佳久子)
七の副詞と下五のこの固有名詞が活きています。景がはっきり見える大きな句ですね。(たかほ)
阿蘇の大地の輪廻の始まり。無事に終わった安堵感も感じました。(博子)
澄江
奥出雲たたらの里の夏燕 合田 智子
奥出雲はたたらが盛んである。そこに夏燕が巣を作った。さもあらうと当然の事柄であるところが、面白い。(芳彦)
刀剣の鋭さと燕の直線的な飛びが合っています。(博美)
春野、夏江、那智子、澄江
半地下にアジアの香り夏来る 佐藤 律子
はま子、博嗣、玲子、尚、早・恵美子、久丹子
窯跡の赤き土塊鳥雲に 石川 由紀子
土塊(地面)と空の映像の対比が鮮やかだと思いました。(美穂)
窯跡の土塊に過ぎ去った時間に鳥雲にと想像をはせていられる(百り子)
史子、楓、礼子
屈葬の抱ふる石や春の闇 内村 恭子
屈葬の様子をリアルに詠み込まれています。(相・恵美子)
博嗣、史子、早・恵美子
葉桜や周回遅れの走者来る 中村 光男
爽やかな季節に皇居周りをマラソンしているグループ。中には、一周遅れで頭をかき乍ら走っている人もおり、現場感が感じられます。(えいちょ)
花の盛りが終わり葉が目立つようになった葉桜と、既に見えなくなった前を追いかけるランナーが重なり、応援したくなります(直子)
「葉桜」と「周回遅れの走者」が響き合っているようです。(てつお)
匠子
聖堂の塔遠のくや春の雪 武井 典子
「塔遠のくや」の表現が、春の雪のおぼつかなさと相まって美しい。(ユリ子)
立哉
足早に僧の行過ぐ花の昼 永井 玲子
桜の下で皆がゆるやかに歩む中、修行僧かもしれません。(恭子)
春野
鳥雲に入る絵葉書の出せぬまま 森野 美穂
匠子
猫の忌も十七回に白薔薇 小髙 久丹子
作者の長年飼っていた猫への愛情は永遠ですね(憲史)
美濃焼の窯元の軒燕来る 西脇 はま子
春の鹿ラヂオ体操過ぎりけり 荒木 那智子
お山開き行者に貰う陀羅尼助 今井 温子
飼葉桶ごろり転がる柿若葉 河野 伊葉
伎芸天音なく舞ひぬ夏の蝶 日根 美惠
伎芸天は大自在天の髪際から化生した天女、容姿端正の福徳・技芸の守護神が音なく舞っているような夏の蝶にであった。小生もこのような蝶に出会ってみたい。(芳彦)
ふだん蝶の羽ばたきに音を感じていないことに、改めて気づかされました。(恭子)
伎芸天と揚羽蝶が美しく舞う様子がぴったりです。(博美)
伎芸天の姿と夏の蝶の優雅な舞がマッチしています。(スカーレット)
飛翔力のある夏蝶から伎芸天の舞う姿を連想しました(勢津子)
温子
水温むチセにアイヌの子守唄 熊谷 佳久子
アイヌの家から子守唄が聞こえる春の訪れですね。(博美)
手鞠
耳元で鳴らす三味線草の撥 土屋 香誉子
子どものころぺんぺん草でよく遊びました。とても懐かしくて頂きました。(スカーレット)
早・恵美子
スタジャンの虎の咆哮夏兆す 鈴木 楓
上5と中7が季語に相応しく咆哮も聞こえてくるようです。(相・恵美子)
初鰹龍馬の像の懐手 合田 憲史
桂浜に立つ見上げる大きな龍馬像を見てから藁で焼いた鰹を食べた想い出、美味しかったなー(貞郎)
先日、土佐に行ってきました。鰹美味しかったです。(てつお)
君が代を初めて歌ひ入学す 榑林 匠子
日章旗も国歌とされる君が代もかの敗戦から影が薄い。小学一年生になり日本国民の自覚を教えられるのですね(勢津子)
「君が代」と「仰げば尊し」は学校生活に欠かせません!昭和の人間として(憲史)
久丹子
蓮の花香りて陵の夜明け 内村 恭子
大和地方の明け方だろうか。時間の経過や風景の移り変わりが見えてくる動画の世界。(ゆかり)
由紀子、澄江
凧合戦もつるる糸の焦げ臭さ 岡部 博行
この光景は経験ある(眞五)
凧合戦の激しさを糸の焦げる匂いとして捉えた。(肇)
陽子
仏性のありて縁の花樒 佐井 俊真
史子
キャベツもみたつぷり食べて検査の日 齋藤 みつ子
検査の日の不安な気持ち、今更と思いながらも少しでもよい結果がでるようにと努力する作者の様子がよくわかります(直子)
たつぷりがいいですね。検査の日と言う着地点もいい。組み合わせから来る妙味を思いました。(順一)
紙かぶと端午は夫の誕生日 今井 温子
新聞紙で兜を折ってくれた父を思い出します。(孝雄)
紙かぶと、新聞紙で作った昭和の風情溢れる思い出。粽を食べて祝ったことでしょう。(郁文)
いいですね毎年子供に帰れますね(みつ子)
「紙かぶと」懐かしいですね(智子)
はま子
忽然と写楽は消えて春の虹 芥 ゆかり
役者絵相撲絵等のエビデンスは残っているのに未だ謎多き絵師、春の虹が良いと考えます(眞五)
写楽は忽然と消えてしまった。その後に春の虹が出たという。作者の人生観が伺える。(芳彦)
役者絵の一級品を数多く残して世間の目から忽然と消えた写楽。彼は虹の変身だったのか。(茂喜)
武蔵野の姉さん被りの茶摘唄 スカーレット
茶摘み歌と姉さんかむりが良く似合いますね、季語「茶摘み唄」が効いている(貞郎)
甘い新茶の季節ですね(智子)
落胆の子と遠く見る春の虹 てつお
がっかりして肩を落としている子と黙って一緒に遠くを見ている。寄り添う気持ちが春の虹を見せてくれた。(ゆかり)
正治、孝子
糠床のにほふ母の手花曇 嶋田 夏江
由紀子、立哉
貝拾ふごと花屑を拾ひけり 中川 手鞠
花屑に寄せる気持ちがたっぷりです。(てつお)
香誉子
猫の子やべっ甲飴の量り売り 野口 日記
まさしく昭和の下町風情ですね。(孝雄)
立哉
茎立や遅れて来たる反抗期 岡部 博行
茎立ちと反抗期の取り合わせが、絶妙(桂一)
せつないですね親も本人も 季語の取り合わせがとてもいいと思いました(美惠)
大きくなってからの反抗期は大変。「茎立」との取り合わせが良い。(佳久子)
季語がきいていると思います(夏江)
反抗期は成長の証しです(智子)
玲奈、香誉子、那智子、匠子、温子、礼子
盛り上る新緑の山蠢けり 嶋田 夏江
新緑は日に日に高く広くなっている(眞五)
春は山が大きく見えます(みつ子)
此の街の確たる自然つばめ飛ぶ 竹田 正明
正治
逢ひてすぐディッヒに変る夏初め 早川 恵美子
たかほ
ままごとの花の色水涅槃西風 木村 史子
春の始まりを告げる優しい風の中のまま事遊びの子供達。花の色水が平和な景を象徴するかのよう。(博行)
いろいろな花を刻んで摺って作った色水。涅槃西風の頃なのでまだ淡い色だろう。美しい句。(ゆかり)
春の海こどもの歌のエンドレス 榑林 匠子
正明
黄沙くる弥生遺跡の楼閣に 芥 ゆかり
礼子
飾棚涼し淋代の貝を置き 西脇 はま子
泰山木
さくらさくら髪にも手土産もつ手にも 木村 史子
飛花落花の時期の桜の花がはらはら散っていく様を「桜散る」との措辞を使わず平明な言葉で表現していて心に残ります。(えいちょ)
散りゆく桜を慈しむ気持ちを感じます(律子)
孝子
リニア行く桃咲く村を切り裂いて 中村 光男
最新のリニアモーターカーと桃の花が咲く静かな村の対比がとてもいいと思います。梅ほど静かでなく桜ほど華やかでなく、桃の花の温かさが感じられます(直子)
リニア新幹線(試運転中)の疾走感がよく表された爽快な句。(肇)
玲子、日記、由紀子、尚、夏江
絵馬堂の柱粉を吹く日永かな 町田 博嗣
絵馬堂の柱はなぜか存在感大きい。(伊葉)
歳時記にさまざまの貝並ぶ春 上脇 立哉
鎌倉の寿司店「わさび」を思い出します。春になると貝をにぎってくれました。(孝雄)
蜂の巣を掲げ地酒の販売所 早川 恵美子
杉玉ならぬ蜂の巣。すずめ蜂の大きなものでしょうか。鄙びた景が浮かびます。(恭子)
緑さす武蔵学園師は不在 山根 眞五
中学4年生の朗人師は「飛び入学で」東京江古田の武蔵高校に合格した。いまは師はいない。(茂喜)
正明
病室で作る屑入れ花の雨 冨士原 博美
博嗣、日記
自転車が追ひかけてゐる猫の恋 たかほ
はま子、玲子
繋ぎ舟に踊る立夏の水輪影 えいちょ
初夏の水輪が生きています。(伊葉)
空耳に母の声聞く聖五月 鈴木 楓
亡き母への強い思慕の情が上五で伝わってきます。(光男)
聖五月は聖母マリアをたたえる月。ありし日の母上を偲んで。(佳久子)
道代
ズック投げ占ふ天気花の下 宮川 陽子
よく子供の頃やりましたね(みつ子)
楠若葉フランス山の深き井戸 金子 肇
日記、手鞠
大漁を知らせる声や南吹く 荒木 那智子
南風のなか嬉しい大漁の知らせを伝える様子が伝わってきます。(光男)
正治
花衣袖に吉野の香りかな 永井 玲子
吉野の花の香りと花衣の取り合わせが、まさに「春」ですね。(ユリ子)
移り香と感じるほどの桜、満開であれ吹雪であれその美しい景が浮かびます(律子)
軍立ちか鋏振り上げ汐まねき 原 道代
鋏を振る汐まねきを軍勢の出陣と捉えたところが面白い。(肇)
汐まねきの振り上げた螯はまさに軍立ちですね(美惠)
野仏の肌を撫でゆく木の芽風 郁文
木の芽風の実感が、仏の肌を撫でる優しさによく表現されている(桂一)
野仏と季語「木の芽風」の取り合わせが良い、(貞郎)
春野
道衣着て若き我あり春の夢 浅井 貞郎
道代
新歓のチラシの束や初燕 野口 日記
新歓のチラシが季語に相応しく新鮮さを感じます。(相・恵美子)
「新歓」の響きが良いですね!大学入学時の溌剌とした事を思い出します(憲史)
新入生歓迎会の案内チラシ、入学時は山ほど手渡されどこに参加しようか迷うところ。初燕の季語もいいです(律子)
青梅の一つを零す夜の雨 荒川 勢津子
しとしと降る夜の雨と青梅の実をきれいに詠まれていると思いました (美惠)
たんぽぽや海軍カレーは金曜日 石川 由紀子
横須賀でしょうか。海軍では金曜のメニューはカレーライスだったという。水兵さんは心待ちにしていたの様子がたんぽぽで伝わってきます。(光男)
老いし身の夏服またも同じ物 片山 孝子
勢津子、正明
囀りやシンクに浸すカトラリー たかほ
日常の何気ない瞬時にしっかりと季節感をキャッチ。(伊葉)
駆けっこは誰にも負けぬ雛の客 明隅 礼子
陽子、香誉子
藤棚に自ずと腰の低くなり 山根 眞五
うーむ当たり前のことかもしれませんが、写実の良さじゃないでしょうか。(順一
)
霾天の裸電球神農廟 染葉 三枝子
楓、たかほ、那智子
切り株に開く絵本や青葉風 染葉 三枝子
グリとぐらの世界でメルヘンです。(スカーレット)
絵本を開いているのは少女でしょうか。絵本の世界のような句です。(ユリ子)
陽子、手鞠、泰山木
居心地は自分次第やかたつむり スカーレット
蝸牛を見ていると、正にこの句の通りです。うまく表現されました。(郁文)
何か人生訓を教えて頂いた気持ちです。(美穂)
孝子、玲奈、道代
疾風に春満月の歪むほど 相沢 恵美子
春の風にはいろいろあるが、満月が歪むような風というのに惹かれる。月に吹く春一番かもなどと思いながら。(桂一)
芯の紅少し濃くして牡丹散る 日根 美惠
白牡丹の散るまでの色の微妙な変化を精妙に描写している。虚子の白牡丹の句を思い起こさせる。(博行)
泰山木
紅さして鬱金桜の残花かな 土屋 尚
花の色の移る様子は、哀れで美しい。来年は紅さす残花の鬱金桜を、見てみたいものです。(博子)
会議の行方じろじろり熱帯魚 妹尾 茂喜
久丹子
チューリップ黄の底黒き蕊の爪 武井 典子
チューリップへの観察眼、色彩の強さ、発見、いいなあと思います。(百り子)
尚
ゆく春や猫の遺骨はまだ居間に 金子 肇
霞みわたる春の後ろ姿に愛猫の姿を重ねた。遺骨と過ごす作者の日々が愛しい。猫も幸せ。(茂喜)
白藤や心経の筆滑らかに 金子 正治
玲奈、温子
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