天為ネット句会報2023年6月

 

天為インターネット句会2023年6月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <福永法弘同人会会長選 特選句>

踏切の先は海原鎌倉蝶                 高島 郁文

江ノ電のとある町の光景。まぶしい海光の中に黒い鎌倉蝶が鮮明だ。(法弘)

江ノ電の踏切を思い出します(貞郎)

あのスラムダンクの聖地湘南を想像しました。鎌倉蝶が象徴的。(博子)

史子、てつお

さみだれや誘導棒の夜のふけて             三好 万記子

工事現場の誘導棒に焦点を当てた句。着眼点が見事。振っている人はどんな境涯の人? などと連想が広がる。(法弘)

降り続く雨の中、誘導係が夜通し棒の灯を振って交通整理している。作者は車中から眺めているのだろうか。どこか詩的な光景となった。(ゆかり)

五月雨に夜更の道路工事の誘導棒の赤い光が滲んでいる。都会の喧騒の中の孤独を感じる。(博行)

  <福永法弘同人会会長選 入選句>

どちらにもいい顔をして水羊羹             泰山木

八方美人的処世術だが、板挟みになって苦しむかも。(法弘)

どっちつかずの水羊羹のお味が・・・ (美惠)

左党の方ですが夏が来たら冷えた水羊羹が恋しくなる(眞五)

うん、ありそうな、、、気を使う”水ようかん”、、、ふらふらと。(志昴女)

せめて甘い水羊羹を食べている間は諍い無きように・・そんな気持ちでしょうか(美穂)

風一陣やあと手をあげパナマ帽             三好 万記子

ロータリーソングの中に「どこで会ってもやあと言おうよ 見つけた時にゃおいと呼ぼうよ 遠い時には手を振り合おうよ」というのがある。声を掛け手を振り合えば心が和む。 (法弘)

お洒落してもなんかもの哀しい昭和の男が・・・ (美惠)

有馬先生を彷彿とさせるお句で、いただきました。(手鞠)

「風と共に来たる」という実感が、パナマ帽で清々しく伝わってくる。(桂一)

一羽入り一羽飛び出す青葉かな             土屋 香誉子

何があったんだろうか? (法弘)

青葉に次々と鳥が乱舞している様子を上手く表現されたと思います。(直子)

季題の青葉から感じる生命力と情景が合っています。(春野)

飛び出す物の正体を数詞で限定しつつもはっきりとは言わないのが技巧的と思いました。鳥の陰をイメージしました。(人秀)

乞巧奠琵琶にはげしき撥の跡              松山 芳彦

撥の跡に着目。むかし、この枇杷を弾いていた人の激しい撥さばきが目に見えるようだ。 (法弘)

中7と下5が効いて琵琶を懸命に打った様子が感じられます。(相・恵美子)

由紀子、楓

風死すや気根が覆ふ廃寺院               熊谷 佳久子

アンコール・トム遺跡といったところか。 (法弘)

芳彦

鳥雲に悲しきときのモーツァルト            森山 ユリ子

すると、嬉しき時はヨハン・シュトラウスとなるかも。(法弘)

悲しいときのモーツアルトがいいと思う(みつ子)

薫風やマスク放ちてルージュ買ふ            佐藤 律子

ついに世界は、コロナのパンデミックから脱した!(法弘)

ルージュは何色?「薫風」が効いていて、「放ちて」で解放感に浸る様子が伺われます(憲史)

青嵐浚渫船の安全旗                  今井 温子

戦前なら「戦艦陸奥の日章旗」となるのだろうが、平和は有り難い。(法弘)

パプリカの三色サラダ夏めける             森山 ユリ子

ピーマンは苦手でもパプリカなら大丈夫という人は多い。まさに夏。(法弘)

梅雨晴やゆつくり走る霊柩車              垣内 孝雄

故人の思い出の場所をゆっくり巡る。何年か前、霞が関の若手官僚が病気で亡くなった時、こういう光景があった。(法弘)

   <互 選 句>

西国のうつし巡礼花卯木                芥 ゆかり

夏シャツや二十歳二人で呑むサワー           野口 日記

初夏、丁度二十歳の初めてのサワー、二人はどんな関係?サワーのお味は?(憲史)

裏庭の豊かな影や大手毬                森野 美穂

泰山木

紫陽花のほのと色づく雨の中              嶋田 夏江

澄江

鮎の川越後の国を貫けり                西脇 はま子

越後の国中が太公望だらけの光景?オーバーなる表現が何とも言えない。(郁文)

立哉、紀美子、尚

口飲みの麦茶二本目下校道               加藤 直子

部活の練習の後、喉を鳴らして麦茶を立て続けに飲み干す。青春の夏の景を爽やかに活写。(博行)

駅ピアノ風向ひ入れ梅雨晴間              齋藤 みつ子

孝子

ぎしぎしと牛車要や賀茂祭               小栗 百り子

「牛車要」にフォーカスした諷詠が良い。(孝雄)

玲奈、恭子、てつお、三枝子

頃合いにメロン熟れたり友来る             小髙 久丹子

熟れたメロン、最高の「もてなし」ですね。(孝雄)

なんて手順の良い方でしょう!お友達も喜ばれたことでしょう(早・恵美子)

百り子

水中花越しの子どもの世界かな             明隅 礼子

日記、博嗣

藻の匂ふ漁港手狭し夏きざす              町田 博嗣

史子、正明

夏帽子釦たがえし町を出る               日根 美惠

青春の鬱屈は未来へ向かうエネルギー。夏帽子・・エピローグは明るいかな。(博子)

恭子、泰山木

箱庭をつくり心の中探る                髙橋 紀美子

夜の新樹妙音天の月の琴                斎川 玲奈

幽玄な世界が広がっている。(孝雄)

夜を刻むガレのかはほり芥子の花            佐藤 博子

エミール・ガレの黒っぽい陶器作品に刻まれた蝙蝠の姿を上五で「夜を刻む」と詠んだのは手柄だと思います。(えいちょ)

濃密な時間積るや梅雨深し               土屋 尚

紀美子

薪能西行を舞ふ塔の蔭                 今井 温子

興福寺南大門前庭の能舞台で「西行」が舞われ、四方に篝火が焚かれる。伝統の芸の厳粛さ。(茂喜)

芳彦

黒子は汗木偶は涙の木偶芝居              原 道代

木偶芝居の黒子と人形とを「汗」と「涙」との対比で詠んだところがお見事です。(えいちょ)

香誉子

目分量てふ塩加減胡瓜もみ               泰山木

那智子、孝子

蟻の穴大き関東ローム層                相沢 恵美子

小さなありの穴と広大なる関東平野の対比が面白い。(郁文)

香誉子、匠子、三枝子

鳴き交はす鴉太りて街薄暑               宮川 陽子

立哉

海の碧余りに深し沖縄忌                中村 光男

かつて沖縄の中学生が朗読した詩「生きる」を思い出した。悲しみの過去に響く鎮魂の詩だった。(茂喜)

私たちが忘れてはいけないもの、いけないことは色々と折ると思いますが、沖縄忌もその一つだと思っています。(志昴女)

那智子、勢津子、道代

父の日や傘寿の重み父知らず              えいちょ

傘寿を前に亡くなられたお父上のことを偲ばれているのでしょう。ご自身が傘寿を迎えられたのかも知れません。(直子)

道代

青田風赤子の寝入る奥座敷               垣内 孝雄

疎開した母の実家の光景を思いました。懐かしい昭和の光景。(肇)

すやすやと眠る赤子を守る神聖で静かな場所としての奥座敷。外の青田風の生命感との対比がよいと思う。(ゆかり)

農家の家族でのほのぼのとした一景が名に浮かぶ(郁文)

季語が相応しく、静かな奥座敷ですやすやと赤子が寝ている様子が感じられます。(相・恵美子)

静かな場所で、スっと通る風を感じて、健やかに寝入っている情景を思います(美穂)

気持ちよさそうな寝顔が目に浮かびます(智子)

たかほ、澄江

たまゆらの岸辺の静寂蛇はしる             阿部 旭

岸辺を蛇が走るその瞬間あたりは静寂と化す、その一瞬を捉え緊迫感が伝わります(律子)

蛇が出てきて、静寂がやぶられた様子。本当にそうですね。(佳久子)

まどろめる聖観音や未草                斎川 玲奈

睡蓮と言わず羊草がいいと思います(みつ子)

雨音の田植唄めく千枚田                竹田 正明

春野

枇杷熟るる静かに時の醸さるる             日根 美惠

静寂の中で枇杷はあたりの空気全体を身に着け熟れていく。(伊葉)

枇杷が色づく長い時間ゆっくりと確かに静かに時間が色を色づきが時間を作りあげている(百り子)

静かな時が醸されるとの把握が素晴らしいです(早・恵美子)

夏江、旭

シリアスなシネマのあとのソーダ水           佐藤 律子

片仮名を上手に使っていますね(智子)

邦画か洋画かでも印象が変わるが、それを超越して「シリアス」と言うのは面白い表現。ソーダ水と言う着地点も上手いと思いました。(順一)

玲子

花樗そよげる沖を貨物船                上脇 立哉

手前に淡紫の小花のそよぐ樗、遠くに貨物船。硬軟の遠近バランスのよさが句の安定感を生んだ。(ゆかり)

傘雨忌や近くて遠き神楽坂               金子 肇

同じ思いです(眞五)

万太郎がよく遊んだであろう細い路地の花街、料亭なども晩年には遠く感じたのでしょう。(博美)

博嗣、てつお

えごの花一つの風にひとつの詩             金子 正治

水に浸してしゃぼん玉にしたと言うえごの花。風に乗って行くしゃぼん玉一つ一つが詩だ。(博行)

ティラノサウルス団扇に描けば跳りだす         小髙 久丹子

恐竜と団扇の取り合わせがユーモアーを生み出している。とにかく愉快。(桂一)

ロマンのある恐竜には魅かれます。恐竜の王者「ティラノサウルス」はかっこいいですね。団扇に恐竜とは・・、お孫さんが描かれたのかな。(スカーレット)

夜の深し職場に熟れし梅漬けて             染葉 三枝子

梅は人間の味方深夜に及んでも梅の仕込みに励む気持ち。(伊葉)

売家の貼り紙めくれ枇杷熟るる             合田 憲史

なかなか売れない家。庭にある枇杷が丸まると熟れている。そのギャップが面白い。(光男)

売家となって久しい家に変わらず枇杷の実が熟す、時の経過の重みのようなものを感じます(律子)

都会でも、近年このようなお屋敷をよく見ますね。(ユリ子)

孝子

物差しで背掻き読書走り梅雨              スカーレット

きっと竹製の物差しでしょう、気怠さとおかしみを感じます(智子)

聖五月遊び疲れし子の重さ               宮川 陽子

聖母のように子供を抱いている姿が目に浮かびます。(春野)

遊んだ経験や楽しい思い出が子供に蓄積されているような感じを受けました。嫌な重さではなく、背負い甲斐がありそうな重さ。(人秀)

玲奈

人の児をみどりこといふ若葉風             上脇 立哉

日記

自販機のごとりと鳴りて夏の雲             中村 光男

中七の表現 鼻濁音なのが良いと思います  (温子)

泰山木、久丹子

神々の黄昏を聴く白夜かな               早川 恵美子

手鞠、芳彦、旭

夏燕公衆電話撤去され                 野口 日記

由紀子、勢津子

少年の目して草笛吹く男                児島春野

純粋な気持ちの男性なのでしょう。「少年の眼」ととらえた所が上手いと思う。(光男)

勢津子、たかほ

ぼこぼこと緑の山や渡月橋               小栗 百り子

単純な句でありながら印象的な句 (伊葉)

剥製の熊玄関に五月闇                 熊谷 佳久子

玄関入ると暗闇の中で剥製の熊の眼が光っていたりして・・、さぞかし驚かれたでしょうね。(スカーレット)

唐寺の若葉染み入る朗人句碑              牧野 桂一

「俳句を世界に!」をモットーにして活動されていた朗人氏を詠んだ句として上五の「唐寺の」の措辞がとても相応しいものと思います。(えいちょ)

「長崎の坂動き出す三日かな」(『不稀』1997年)の句碑に若葉の色と光があふれている。(茂喜)

長崎の興福寺でしょうか?懐かしく拝見。(佳久子)

澄江、道代、はま子

長谷寺や奈良に鎌倉花便り               山根 眞五

奈良にも長谷寺があり花便り古都の花便り風情ありますね(みつ子)

かつ丼の好きな荷風の忌なりけり            西脇 はま子

初めて知ったことで、より荷風に親しみを持てる事実だと思いました。(順一)

玲子、三枝子

麦秋の風に吹かるるカフェテラス            合田 智子

夏江

老神父テニスコートにシャツ真白            てつお

夏のテニスコートに矍鑠とした神父がきりりと白シャツを着てきびきびと動いておられる様子が浮かびます。(直子) 

見晴かす北の大地は麦の秋               高島 郁文

見てみたい景です。(肇)

手鞠、正明、尚

白服の折り目著きやベルボーイ             たかほ

「白服」が効果的で、折り目のみならず表情も引き締まって見えます(憲史)

爽やかな新人ベルボーイを想像した。「著き」が上手いと思いました。(人秀)

香誉子

白鳳仏まします寺や著莪の雨              鈴木  楓

匠子

あめんぼの影は軽やか泡の色              竹田 正明

泡の色とはなるほど、確かに・・と感心しました。(スカーレット)

首塚も華やぐ神田祭かな                岡部 博行

恭子

切株の朽ちつつ蛇を棲まはせぬ             明隅 礼子

朽ちる(死)と棲む(生)が同居している所に惹かれました(美穂)

髪切つて後悔すこし心太                中川 手鞠

那智子、立哉、匠子、万記子、はま子

ミュシャ展へ薔薇のニンフに誘はれて          荒川 勢津子

由紀子

羅を着れば怖れぬ四面楚歌               えいちょ

羅にはこのような効果があると教えられました。(肇)

羅姿の毅然、自信。エネルギーを感じます。(ユリ子)

万記子

新道に沿ひて四葩の虹色に               土屋 香誉子

正明

制服の笑ひ転げて風光る                永井 玲子

これは女子高生だろうな。箸が転がってもおかしい時代。笑い声と制服が青春!(志昴女)

何がそんなに可笑しいの?とおとなは不思議に思うでしょう。いやいや笑い転げれる青春こそ万歳!(律子)

制服ので年頃の女の子の感じがわかります(夏江)

玲奈

ショーウインドー背筋を伸ばすサングラス        スカーレット

久丹子

夕端居かつてラジオに「尋ね人」            てつお

確かに「尋ね人」という番組がありましたね。半世紀以上も前の頃ではなかったでしょうか。ある感慨を感じます。(光男)

夕飯を終えて縁に涼むと毎晩ラジオから「尋ね人」が流れてきました 中国の地名を今でも空で言えます。重い昭和 (美惠) 

ループ電車の一日切符夏浅し              河野 伊葉

時間に縛られないぶらり旅の魅力は格別。春から夏の季節の移ろいを堪能されたことでしょう。(博子)

AIの告げるニュースや蛭蓆                佐藤 博子

久丹子

火蛾乱舞今宵一夜の湯宿かな              合田 憲史

旅行を堪能できたらしいと言うのが間接的に伝わって来るようで、好もしい句だと思いました。(順一)

世界中平和を願ふ子供の日               嶋田 夏江

同感(貞郎)

蛍狩源氏平家の競ひ合ひ                石川 由紀子

西国出身の自分は平家ファン、黄泉の国でも競い合っていることでしょう(眞五)

水攻めに耐へし忍城大賀蓮               金子 肇

忍城は攻められても落城しなかった、大賀蓮も長い年月持ちこたえ今に至っている素晴らしさですね。(博美)

はま子

引き入るる山気青嶺を背負ふ家             町田 博嗣

青嶺からの山気が充分に。気持のいい句。(佳久子)

風となり光となりて夏来る               岡部 博行

素直に詩っているところに共感  (温子)

万記子、楓

乳鉢に青の結晶薬の日                 髙橋 紀美子

薬剤師さんかしら?乳鉢思いつきませんでした脱帽!(早・恵美子)

博嗣、玲子

濡れて行くこともうれしき緑雨かな           土屋 尚

緑雨の中を嬉々として行く子供の姿を思い浮かべています (温子)

紀美子

全盲と涼しく言ひて弾くショパン            早川 恵美子

全盲と「涼しく言う」ところに演奏の見事さが表現されている。ショパンの曲がぴったり。(桂一)

凄いことです(貞郎)

弾くショパンは「雨だれ」でしょうか。(ユリ子)

ひと山で売らるる化石黄雀風              芥 ゆかり

ゴビ砂漠近くでこんな情景がありました。珍しい季語との取り合わせが良いですね。(たかほ)

化石には何が含まれているのか?分からないのと、湿気を含み蒸し暑い風が何処か通じているようです。(博美)

黄雀風が吹くと海の魚が変身して黄雀になるとのこと、知りませんでした。化石と季語が合っています。(相・恵美子)

ひと山で売られるようになってしまった化石季語の取合せが面白いです。(百り子)

史子、日記

以上


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