天為ネット句会報2023年7月
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
また互選句は句稿番号順に並べております。
若者に教はることばソーダ水 木村 史子
言葉は時代によって変化してゆくが、ネット社会になってその変化は急激になった感がある。掲句は、若者だけが知っているような新しい言葉を説明してもらっているのであろう。「ソーダ水」は青春を回顧するような雰囲気を伴う(傳)。
若者から生れて来る新しい言葉を学ぼうとする作者の前向きな姿勢がソーダ水の爽快感と重なる。(博行)
勢津子、順一
島嶼の絵あしらふ枇杷の包み紙 町田 博嗣
戴き物の枇杷であろうか。その枇杷は一つ一つ大事に紙で包まれており、その包み紙には「島嶼」の絵が描かれている。ゆたかな海光を受ける島の畑で育った枇杷なのであろう。たくさんの島々の浮かぶ美しい海の景も想像されてくる(傳)。
茂木枇杷ですか 五島列島の島嶼の絵が描かれている包み紙でしょうか 故郷ですか 青い青い大空と海と風と香りが見えます。 (美惠)
十薬や猫に聴かせる今日のこと 野口 日記
作者の猫愛を感じます(眞五)
ひとり身だろうか。話し相手も少なく猫に語り掛けている孤独な老後を思わせる悲し気なる句。(郁文)
季語と猫との取合せが良いと思います。耳をふせて猫は素知らぬ顔かも(百り子)
十薬にドクダミの名があるように猫にもある二面性。じっと聴き入ってくれている猫と作者の距離感が温かいです。(博子)
久丹子、夏江、泰山木、尚、道代
やはらかき手よりもらひし恋蛍 てつお
恋蛍の季語がよく効いている(桂一)
かなを多く使われていることも恋蛍への想いが伝わります。(博美)
蛍を捕まえるなんて、しかも優しい手からもらうなんてすてきな夏の夜ですね。(直子)
万記子、温子、手鞠
日を散らす水車の軋み桐の花 斎川 玲奈
日を散らす水車の軋みが見事な詩的空間をつく出している(桂一)
立哉、たかほ
短夜や巻き戻し聞く兄の歌 永井 玲子
巻き戻し聞くおにいさまの声。喪失感を短夜の季語がより強くします(律子)
万記子、博嗣
病棟の幼の気丈夏の雲 宮川 陽子
頑張れ、全快してくれ!(志昴女)
小児病棟だろうか?闘病治療中の子どもたちはそんなに柔ではない。夏の雲がまた明るさを添える(律子)
正治
蛇の衣信濃の風の中にあり 明隅 礼子
史子,匠子
月島の豊玉姫の落し文 西脇 はま子
さぞや豊玉姫は心残りなことでしょう。(博美)
眼鏡屋のぎょろ目看板梅雨曇 児島 春野
手鞠
夭折の詩人の年譜心太 木村 史子
芳彦
好き嫌ひはつきり言ふ子ソーダ水 てつお
率直な性格とソーダ水がぴったり(ユリ子)
路地裏の水神様の祭かな 上脇 立哉
下町の風情が味わえる句。(孝雄)
さざなみや青水無月の風の径 中川 手鞠
すんなりとした句に清々しい景が想像されます。(相・恵美子)
涼しさやここより武甲山裏参道 須田 真弓
玲子
老境の画家の赤き絵明易し 芥 ゆかり
鮎の宿祭太鼓のひびき来る 西脇 はま子
エニシダや遙かケルトの丘を恋ふ 森山 ユリ子
万緑やカフェ満席の美術館 金子 肇
日記
乗り継ぎは紙の切符や夏の山 三好 万記子
紙の切符は都会では見かけなくなりました。何度も乗り継いで遠くまで来たなあという気持ちが伝わります。周りののどかな景色も浮かびます。(直子)
平成の世から紙の切符を持つ機会がまれになり、令和は紙幣がこうなりつつあります。(春野)
史子、恭子、礼子
失敗のひとつや二つレモン水 野口 日記
若い時の失敗は怖るに足りず。「レモン水」がいいですね(憲史)
陽子
星の夜のスカイツリーや業平忌 宮川 陽子
業平橋駅が改名されたのは残念だが、業平の名は永劫。星の夜のスカイツリーに恋が生まれる度に・・・(博子)
沙羅の花けふ一日の美しき白 日根 美惠
夏江、尚、日記
先客や沓脱石の青蛙 原 道代
看板猫、犬と動物が店の広告塔に。青蛙もそんな気持ちで主にPRしているのでは。けろけろと。(郁文)
先客として迎える、緑が鮮やかな青蛙には存在感があります(律子)
捩花の二本並んで左巻き 中川 手鞠
史子
蚊遣火や風の運べる妣の小言 金子 正治
道代
向日葵の黄新生児黄疸の黄 石川 由紀子
向日葵の黄と黄疸の黄の取り合わせに新しさを感じる (桂一)
記紀の火を消しゆく鵜舟水脈静か 金子 正治
紀美子
涸梅雨の空を回せる観覧車 相沢 恵美子
軋みながら回る観覧車が涸梅雨の空を回すと逆転の視点で捉えたところに詩が生まれた。(博行)
手鞠
牛蛙仏足跡に鎮座して 石川 由紀子
陽子
花合歓の風旅帽を通しけり 河野 伊葉
合歓の花と旅帽の取り合せがいいですね(智子)
潜水艦陸に据ゑられ夏の昼 上脇 立哉
博嗣
紫陽花や忍びのごとく忍びをり 山根 眞五
はま子
賑はひは雨音梅雨のテラス席 岡部 博行
雨音を賑わいとしたところで一瞬視野が開けていきます。(伊葉)
真弓
水匂ふマティスの窓辺巴里祭 芥 ゆかり
楓、泰山木
「流浪の民」歌ひし母や麦の秋 熊谷 佳久子
麦秋の野を歩きつつ、「ぶなの森の葉隠れに…」と唄い教えてくれた母の声を思い出す。(茂喜)
青春?の思い出の一曲かしら?(智子)
女学校のコーラスでよく歌われていた「流浪の民」を思い出します。(ユリ子)
黴の香のどこか懐かし納屋の奥 金子 肇
この懐かしい感じ、実感としてよく解ります。(美穂)
夏江
空蝉の醸す有為の世般若経 竹田 正明
紀美子
白南風や網を繕ふ漁継ぐ子 合田 憲史
梅雨明けてこれから漁の季節だと網を結っている、明るい期待が伝わってきます。季語白南風が効いている。(光男)
爽やかな季語が情景にピッタリ。(肇)
親の生業を継ぐと決めた子の「決意に交じる不安や諦めの心情」が存分に伝わります。(てつお)
正治
山鉾に雲一条を呼び込めり 河野 伊葉
個人的に好きな月鉾を想像しました。一条雲がかかれば、風情も増すことだろう。宵闇ならば尚更。(博子)
日記、那智子、礼子
風薫る老舗の大樹加賀城下 嶋田 夏江
城下町の大樹の風姿が目に浮かびます。(てつお)
青虫の一糸(いっしゅ)に縋るも天知らず 松山 芳彦
たかほ
枇杷すする病良き日の国なまり 今井 温子
闘病のひと、今日は体調がいいと話が弾む。自然と国訛りがでてしまう。穏やかな雰囲気が表れている。季語の枇杷すするがいい。(光男)
小康を得たこの日の枇杷は 口の中でふるさとの香りが・・・幸せな時間 (美惠)
国訛りに弾みがあったのでしょう。元気が出てなにより。(伊葉)
中七の内容と上五の動詞、下五の名詞のバランスが絶妙です。(たかほ)
おしゃべりの出来る体調の良い日お国訛りも出て明るい感じです。(百り子)
立哉、香誉子、正治、玲子
ついついと人を引き寄せあめんぼう 児島 春野
人を引き寄せの中七が上手です(早・恵美子)
恭子、香誉子
精進の薄味にして夏書納 牧野 桂一
味を持ってきたところがすごい!(早・恵美子)
幼子のリセット早し昼寝かな 加藤 直子
孝子、はま子
水甕に映る白雲半夏生 相沢 恵美子
那智子、芳彦
田一枚青鷺佇てば引きしまる 小栗 百り子
日本画を見ているよう。(佳久子)
出目金の泳ぐ男の狭き部屋 たかほ
狭い部屋での「出目金」との暮らし、月日は過ぎてゆく。(孝雄)
久丹子、尚
鉢ごとの水揺れてゆく金魚売 土屋 尚
天秤棒を担ぎ、きんぎょー、きんぎょーと歩く昭和の時代のよき懐かしき光景。 (郁文)
気取らず普通に表現しているところがよいですね。(伊葉)
涼しげな水・・確かに鉢ごと揺らぎは違いますね。着眼点凄いと感じました。(美穂)
上五が効いています。(春野)
陽子
苦瓜を這わせ農家の日除かな 土屋 香誉子
立哉
道化師の不吉な予言夏至の夜 中村 光男
順一、芳彦
傘ささぬ青年清し梅雨の街 土屋 香誉子
梅雨の雨の中、傘を差さずに歩く青年の姿。これが青春。(志昴女)
猫の老いととのひゆけり迎へ梅雨 垣内 孝雄
やがて別れを迎える猫でしょうか。「老いととのひゆけり」が心を打つ。(肇)
「ととのひゆけり」の表現がしみじみと胸に迫ります。(万記子)
愛猫の老いの現実を受け入れたのか。整うという言葉に覚悟も感じられる。季語の「迎える」も示唆的だ。(ゆかり)
ロボットの充電完了瞳の涼し 今井 温子
香誉子
渾名しか覚へてをらず花氷 泰山木
花氷が飾られている会場。同級会の悪童?おい、何年ぶりだ?(志昴女)
遠い日の不確かな記憶と、溶けてゆく花氷の儚さ氷を通して見える像の曖昧さが響き合う。(博行)
渾名や呼び名でのおしゃべりが懐かしい(智子)
勢津子、匠子
青葉木菟湖族の裔に継ぐ口伝 内村 恭子
偉業を成し遂げた湖族の誇りを受継ぐ人々が今もいるそうです。季語が効いています。(相・恵美子)
楓、那智子、真弓、礼子
万葉の乙女祀られえごの花 佐藤 博子
祀られている乙女は定かではないが「万葉集」に詠まれている「えごの花」との醸し出す趣が優美である。(孝雄)
蓮ひらく母は曼荼羅図のなかに 原 道代
真弓
続きゐる学びわづかや籠枕 町田 博嗣
晩年になると学びしこともだんだん忘れる。昼寝の目覚めと共に記憶がこぼれる。(茂喜)
佐比売野に一さし舞ふて消ゆ蛍 早川 恵美子
神話の国出雲の女神の山に舞をひとさし・・・(美惠)
線描の余白涼しきマチスかな 小髙 久丹子
マチスというと鮮やかな色彩を思い浮かべるが、線描画も魅力的。シンプルなドローイングの余白に注目した。(ゆかり)
「余白涼しき」の措辞が抜群。(てつお)
勢津子
ゴンドワナ大陸語りつつ氷菓 内村 恭子
かき氷を食べながら夢多きゴンドワナ大陸の話をしている。楽しい様子が目に見える。(光男)
久丹子、春野
夏の月えぞももんがの滑空す 熊谷 佳久子
季語が相応しく、空の広い景の中に下5で動きを捉えています。(相・恵美子)
モモンガと聞くだに絵本のなかに引き込まれるおもいです (温子)
鎌倉に謀反の匂ひ七変化 中村 光男
雨が近づいているのか。その風雲急を告げる気配を謀反の匂いと表した。鎌倉だからこそこの表現が活きる。(ゆかり)
季語が効いています!(博美)
「七変化」と「鎌倉」の取り合わせがいいですね(憲史)
泰山木、玲子、匠子
祥月の憂き深くして額の花 片山 孝子
身に沁みます。(百り子)
緑蔭や見つけてみたき象の骨 森野 美穂
博嗣
海へ向くアカンサスの花風薫る 髙橋 紀美子
「海へ向く」表現がよいと思いました。(ユリ子)
炎天下ダリの亀裂の地に奔る 早川 恵美子
順一
梅雨明けや書棚匂ひてゐて静か 日根 美惠
孝子
孔子廟緑陰に聞く鳥の声 鈴木 楓
雰囲気が出てゐます(早・恵美子)
螢狩子の影散つて声散つて 岡部 博行
リズム感があり、また散ってのリフレインが心地よい(眞五)
子供達の楽しそうな動きが、よく出ている句。(佳久子)
蛍の光の動きや煌めきが感じられると思いました。(美穂)
浜茄子やけぶる国後ただ眠る 高島 郁文
「国後」に「ただ眠る」が思いを深めています(憲史)
紀美子
図らずも鈍行の旅青田風 槫林 匠子
たまにはこうゆう旅もいいですね。心地良いひととき。(佳久子)
恭子
緑陰や四、五人囲む将棋盤 嶋田 夏江
子どもの頃に父が初めて教えてくれたのは将棋だ。強くなろうと涼み台の上の盤を見つめた。(茂喜)
子の顔の見えぬ山盛りかき氷 加藤 直子
少々大袈裟な表現の向こうに子供の嬉しそうな表情が見えてくる(眞五)
今のかき氷は本当に大きい。値段もいいけれど。(肇)
大盛りのかき氷の後ろにいる子どもの表情を想像すると楽しくなりました。(道代)
孝子、はま子
水煙の天女の調べ瑠璃鳴けり 鈴木 楓
修復なりし薬師寺の水煙 三月にお参りしたばかりです (温子)
地にあればもそもそ急ぐ毛虫かな 岡崎 志昴女
毛虫は本来草木にいるもの。そもそもと言うのが気持ちをよく表現されていると思います。(直子)
国生みの天の御柱白紫陽花 斎川 玲奈
楓
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