天為ネット句会報2024年3月
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
また互選句は句稿番号順に並べております。
水城まで延びる防堤霾れり 牧野 桂一
「水城」は福岡県太宰府市・大野城市の境界に築かれた古代の土塁。白村江の戦で敗れた後、大宰府防御のために築かれたという。その水城につながる更なる防堤の跡も残っているのである。唐・新羅軍が攻めてくるのではないかと見遣った西方から昔も今も春になると黄砂が飛んでくるのである(傳)。
唐・新羅の侵攻に備えて築かれた水城。黄土高原から飛来する黄砂。大陸との歴史に想いを馳せる。(博行)
笹啼きもせずに蜜柑は喰うてゆく 岡崎 志昴女
自宅の庭に小鳥のための餌台をこしらえてあるのだろう。まだ春にならないうちに、珍しいことに鶯がやってきた。笹啼きを聞くことができるかと期待したが、それは叶わず、餌台に置いた蜜柑だけはしっかり食べ、去っていったというのである。期待外れに終った気持ちの出た言い方が面白い(傳)。
白梅と共に年取る終の家 染葉 三枝子
老いに対する覚悟が伝わってきます。(光男)
家を建てたときに記念に梅の木を植えたのだろう。歳月が過ぎたその間の思い出にふけっている様子が伺える。(郁文)
陽子、芳彦、伊葉
笑みてをり目も口も無き紙雛 土屋 香誉子
紙のお雛さん 目鼻が書かれていないのに微笑んでいらっしゃる 素敵な句です(美惠)
目や口がなくても、優しい笑顔が眼前に浮かんでいるのでしょう。(てつお)
ほのぼのとしたかわいらしい雛と見ましたが角度や心持によっては不気味にも(久丹子)
正明、勢津子
地虫出づ縄文女神の小さき臍 髙橋 紀美子
縄文の時代から女性のへそを愛でていたというのが面白い。季語の斡旋がすばらしい。(光男)
こんなことになればきっと楽しいかと~(博美)
縄文女神の小さな臍と季語の取り合わせが効いています。(相・恵美子)
ふと縄文女神像の丸いお腹が地面で、へそ=地上の穴から地虫が這い出てくるように感じました。(春野)
降るほどの星の瞬き立子の忌 中川 手鞠
典子、たかほ、伊葉、恭子
菩提樹の芽吹きのパリも遠きこと 森山 ユリ子
遠きこと がいいなあと思います。(百り子)
菩提樹の芽吹が見られるのは何処の街路樹だろう。パリは遠くなった・・・共感です。(博子)
恭子
恋猫の屋根より落ちしより飼はれ 内村 恭子
猫を飼うきっかけは様々。こんなドジ猫は可愛い。(肇)
陽子、香誉子
比良八荒やうやう湖の色となり 日根 美惠
春めく山と湖の色。(孝雄)
比良八講の法会の前後に冷たい風が吹き荒れ冬から春へとようやっと動き始める、湖も色を取り戻し始める、そんな景でしょうか(律子)
八講を八荒と言い換えるほどの強い風も収まった琵琶湖の静けさ。12文字の措辞に惹かれました。(博子)
本郷菊坂路地片隅の花菫 鈴木 楓
樋口一葉の面影を見るようで、可憐な季語がぴったり(典子)
花菫は樋口一葉の様ですね。(佳久子)
嫁入の娘の部屋へ福の豆 山本 純夫
嫁した娘への変わらぬ思い。(肇)
道代
永き日や神宮の矮鶏ついてくる 熊谷 佳久子
博嗣
雲梯をぶらぶらわたり卒業す 中村 光男
恭子
鬼餅の奉書包の赤き帯 西脇 まは子
袍の紐濃むらさきなり午祭 斎川 玲奈
フローラを攫ふゼフィロス春一番 佐藤 博子
ボンボンの銀紙の皺春眠し 永井 玲子
紅梅の紅いづこより降りきたる 中島 敏晴
冬のモノトーンの景色にぽつぽつと紅梅が綻ぶ頃、その鮮やかな色に突然どこから来たのかと感じる作者に共感する。(ゆかり)
紅梅の紅の鮮やかさに不思議を感じる作者に共感する。紅の繰り返しが紅の鮮やかさを際立たせる。(博行)
伊葉
満開の河津桜を描く人 石川 順一
桜を見る人に描く人楽しみ方はいろいろですね(眞五)
何もかも吹つ飛ばす快春一番 たかほ
本当にそう思います。(肇)
夕刊を畳めば募る余寒かな たかほ
未だ残る寒さを夕刊を読むころにふと感じた(泰山木)
殺伐とした記事も目に付くこの頃 加え黄昏時 しみてくる感じです(久丹子)
孝子、香誉子
水琴鈴胸に鳴らして雛の客 芥 ゆかり
水琴の鈴が胸にあるのか、これを鳴らして雛の客がやってくるのか、優しさが表現されている。(芳彦)
日記
縺るるを解きて寂しき小灰蝶 小栗 百り子
小灰蝶のこのような情景を見たことがあります、楽しんで縺れているのだろうと~(博美)
尚
乙女らの別れはなやか春の駅 森山 ユリ子
輝かしい未来を目指しての別れの一歩目。”頑張れ!”(智子)
卒業あとの女子高生の光景か。地味な制服でも、声や表情は華やぎに満ちているのが伝わる。(純夫)
正治、敏晴
春光や古道具屋の色ガラス 中島 敏晴
色ガラスを透かして春の光を受け、小道具も鮮やかに生き返るようです。(ユリ子)
史子、春野、玲奈、澄江
手話の娘の細き指先春の虹 合田 智子
旭、志昴女
二月尽く和算にもある二進法 土屋 尚
和算の二進法は、優れものですよね。「二月尽く」と「二進法」が二の重なりだけでなく内容的にも響き合う(桂一)
春霖や音のくぐもる荒川線 山本 純夫
万記子
雪解川人の匂ひを寄せ付けず 日根 美惠
大自然の営みの厳しさ大きさにあらためて畏怖を感じる(泰山木)
雪解けの川の流れの勢いを見事に詠まれています。(幸子)
中七下五により、滔々と清冽に流れ行く雪野川のあり様を鮮明に言い留めている。(博行)
早春の寒い川辺は匂いがしない。また、地元の人も未だ近づくことがない。そのことを中七下五の表現は巧みでした。(純夫)
立哉、史子、玲子、はま子
湧水を掬ふ母の手いぬふぐり 野口 日記
母の小さいながらしなやかで色白の手と瑠璃色の小花が相まって春の到来にピッタリ!(憲史)
源泉の水を掬い、何か救われる思いがあったのかもしれません。そしてその水でイヌフグリが育っているかもしれず、想像力がこの句を読んで居て膨らみました。(順一)
夏江
料峭や観音廟の閉ざされて 斎川 玲奈
琵琶湖湖北の観音様たちでしょうか 湖北は雪深く春が遅いです。季語の料峭がぴったり(美惠)
由紀子
糸遊の烟ぶる木道尾瀬の水 松山 芳彦
楓
古雛世紀の風をほほに受け 荒川 勢津子
夏江
理髪師のしばし手を止め春の鳥 泰山木
正治、尚
風光るガラスの底に海の渦 妹尾 茂喜
確かに瓶の底は渦巻いている。それを海の渦ととらえたところが素晴らしい。(光男)
三枝子
抜き胴の一本決まる寒稽古 牧野 桂一
剣道の難易度の高い返し技は集中力で決まる。寒稽古は精神力を鍛える場であり、季語と技が呼応していると感じた。(純夫)
はま子
バス停の片手袋や夜の雨 井上 澄江
雨の中片方なくした方さぞかし寒いでしょうね(みつ子)
道代
齢なるつまずきそうな名草の芽 片山 孝子
玲子
線太き仏画の表紙春の雪 河野 伊葉
水墨画でしょうか仏様、神々しいでしょう(みつ子)
玲奈
春雨の傘のしずくや二月堂 泰山木
敏晴
骨折の日日薬や寒明くる 早川 恵美子
中7が効いています。日にちが経つと気が付いたら骨折も快方に向かていますね。(相・恵美子)
博嗣
芽柳の土掃くほどにしだれけり 熊谷 佳久子
道端や池のほとりの早春らしい写生句。「土掃くほど」という措辞から微かに風を感じるし、春の土の匂いも立ち上ってくる。(ゆかり)
水辺に多い柳。芽柳なので、枝があらわ・・。それを箒と見立てたことで、風や土や水の匂いも感じました。(博子)
由紀子
地に空の色を点せりいぬふぐり 岡部 博行
「中7」がよかった。(佳久子)
はま子
しゃぼん玉爆ぜて日留子ノ命かな 佐藤 博子
日留子の命としゃぼん玉が響き合っています(早・恵美子)
オルガンの譜面より蝶生まれけり 西脇 まは子
オルガンからいい音が生まれていることが、「譜面より蝶生まれ」ということでよく伝わってくる。(桂一)
春の調べが聞こえてくるようです。(てつお)
万記子
その中にお歯黒一人雛まつり 芥 ゆかり
今頃お歯黒の人はいないだろう。とするとひな壇の中にお歯黒の官女がいたのか。よく発見したものだけどあり得る?(郁文)
ぎょとしました。古いお雛様 なのでしょうね(幸子)
香誉子
甚五郎の墓に音して椿落つ 原 道代
澄江
骨折の夫の退院更紗木瓜 冨士原 博美
更紗木瓜というのは一木に紅色の濃淡の花がつくものらしくそれを紅白に見立て退院の喜びを詠まれていると想像しました(律子)
ゲルニカの反戦今に地虫出づ 竹田 正明
成程!地虫を持ってこられたことが凄い(早・恵美子)
衝撃的でした(智子)
旭
春雨や素振り百回して睡る 染葉 三枝子
季語が春雨なので深堀りの鑑賞をした。柔らかな雨の日、少し愁いを含んだ気分を持て余し、素振り百回でもやもやを振り払って蒲団に飛び込んだ。そんな思春期の子の様子を見守っているのかなと。(ゆかり)
立哉
裏山の闇の深きへ豆を撒く 相沢 恵美子
正明
お開きやママ特製の蜆汁 上脇 立哉
お得意の蜆汁おいしそう(みつ子)
宴の後の余韻が感じられます(幸子)
飛行機雲二筋のぼる彼岸かな 三好 万記子
史子
春の鳥騒ぐ農村桟敷席 原 道代
農村歌舞伎の桟敷席らしい景に詠まれています。(相・恵美子)
調弦の音さだまりぬ春の海 熊谷 幸子
弦楽器で奏でる「宮城道夫」の春の海をイメージしているように感ぜられる。(芳彦)
平らかです。春の海がいいなあと思います。(百り子)
調弦が終わった後の「春の海」は、さぞや清々しかったことでしょうね。(てつお)
手鞠
旅行誌にたどる夢路の春炬燵 高島 郁文
日記、孝子、三枝子
黒髪の寝ぐせの残る官女雛 永井 玲子
昨年しまった時の状態が悪かったと反省の様子が伺える。なんて言っても長い髪の毛だから。「その中にお歯黒一人雛まつり」と同様に意表を突いた句です。(郁文)
昨年の官女雛の納め方が良くなかったのか黒髪がはねていたのかも知れません。寝ぐせの残るという表現が面白いです(律子)
くすっと小笑いが起こるようなユーモアに惹かれました。(順一)
志昴女、澄江
組紐のとんとんからり春障子 石川 由紀子
障子明りに紐を組む様が 浮かぶ。(孝雄)
博嗣、陽子、那智子、三枝子、手鞠
雨だれに似て馬の子の駆ける音 荒木 那智子
百り子、玲奈
娘に習ふ菜の花パスタ香り立ち 野口 日記
ほのぼのとした母娘ですね(眞五)
母娘で台所に立つ幸せの時間です(智子)
正治、孝子
横顔のハシビロコウの日永かな 佐藤 律子
辛抱つよいハシビロコウ日永ですね(夏江)
勢津子
梅が香や二重に締むる袋帯 孝雄
梅が香る佳き日におめでたい事があるのでしょう。(春野)
椿散る地にくれなゐの照り翳り 相沢 恵美子
楓
古書街に和綴本買ふ春の宵 中村 光男
小生も先日、図書館で『阿羅々木』第壹號 明治41年10月を見つけ、読み始めました。(茂喜)
桜湯の花のほどけて香気立つ 中川 手鞠
おめでたい席で出された桜湯の香が伝わりました。(佳久子)
来年度の予算報告うぐひす餅 木村 史子
尚
刈上げの白きうなじや冴返る 児島 春野
旭
四万十や木橋の釘に遍路杖 町田 博嗣
勢津子
やんわりと離壇の話梅香る てつお
墓じまいと解釈しましたが、離檀とは宗派からも離脱でしょうか?もっと重いものでしょうか?(憲史)
このようなお話はやんわりがベストでしょうか。ロケーションとしても梅の香は絶妙ですね(久丹子)
犬猿の隣家を隔つ藪椿 てつお
由紀子
木の芽季ひと雨ごとに色の立ち 佐藤 律子
たかほ
北窓を開けて主宰に逢ひにゆく 合田 憲史
令和2年12月6日に朗人師は旅立たれ、句集10冊のほか多くを残されました。逢いたいです。(茂喜)
家族の誰かに留守番を頼んでおいたのかもしれません。そう言った事情はともかく、この句を詠んだ人の俳句に対する情熱が伝わって来る様で好もしく思われました。(順一)
典子、万記子
背を正しつかず離れず野水仙 髙橋 紀美子
すっくと立つ水仙に春の清しさを感じますね(ユリ子)
敏晴
万葉歌の犬養節や春の夢 荒木 那智子
早速,犬養節聞きました。万葉歌が身近になり現実的で面白かったです。(玲子)
春耕や山ふところの法螺の音 金子 正治
楓
花衣掛けし棺を送りけり 荒川 勢津子
美しい哀悼句(眞五)
理想的な送られ方ですね。(博美)
志昴女、道代
小国の戦禍術なし凍返る 小高 久丹子
正明
山峡の雪解の水の光る音 鈴木 楓
「光る音」の表現が素晴しい(ユリ子)
那智子
砂浜に珊瑚のかけら桜南風 嶋田 夏江
日記
躾糸取るや初蝶飛び立てり 小栗 百り子
社会に出ていく若者の初々しさを思い浮かべました(泰山木)
お嬢様にお洋服を新調されたのかしら?素敵です(早・恵美子)
「躾糸」という表現が初蝶と相まって新鮮です(憲史)
立哉、手鞠
うすうすと山々つらね春田かな 三好 万記子
「山々」と「春田 」との遠近を詠う。(孝雄)
那智子
雪と云ひ雪と書きたる日誌かな 明隅 礼子
きょうも雪か 珍しく降った雪か 日記でなく日誌で業務日誌とわかりますし・・・ (美惠)
リフレインがいいですね。(たかほ)
啓蟄や能登の海浜隆起する 山根 眞五
去る1月1日発生の能登地震は過去100年で最大の隆起となった。復興の早いことを祈りつつ(茂喜)
能登半島の隆起は、地震のものすごさをよく表している。「啓蟄」で今なお地震の影響が治まっていないことが伝わってくる。(桂一)
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