天為ネット句会報2024年5月
※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
また互選句は句稿番号順に並べております。
茶葉入れて揉機いよいよ黒光り 土屋 香誉子
この句の季語は「茶揉み(製茶)」ということになるだろう。摘んだ茶の葉を蒸籠で蒸したあと揉機に入れて揉み上げるのである。「黒光り」という措辞から、長年使い込んだ揉機のさまが想像されてくる。芭蕉にすでに「山吹や宇治の焙(ほい)炉(ろ)の匂ふ時」という製茶を詠んだ句がある。元禄四年(1691)の作という(傳)。
製茶の工程を上手く一句に纏めています。(相・恵美子)
使いこなした揉機が活躍する時期になり一段と活躍している状況が見えます。(博美)
海峡や揉まれて育つ桜鯛 泰山木
桜の咲くころ産卵のため内海の浅場へ群れてくる鯛を「桜鯛」という。瀬戸内海では鳴門・紀淡・明石などの海峡を通り乗込(のつこ)むので「乗込鯛」という傍題もある。「乗込む」とは魚が冬籠りを終えて、深場から浅い所へ移動を開始することをいう。その生態を一句に仕立てた(傳)。
瀬戸内の愛媛や福山かな美味(眞五)
内定を貰ひてよりの春愁ひ 内村 恭子
最近の内定の時期は早いと聞く。そうすると内定ブルーが春というのも頷ける。入社まで時間があるとあれこれ考えてしまう。新しい春愁の句。(ゆかり)
当今は情報も多くいろいろ迷い不安も出てくるでしょうね(久丹子)
勢津子、正治、温子、手鞠、百り子
こどもの日子らの見つむる河馬の尻 孝雄
河馬はこちらを向いてくれない。子供たちはつまらなさそう。(佳久子)
河馬の尻を見て目をまん丸くしている子どもの姿が見えてくる。河馬の尻の大きさも見事に表現している。(桂一)
でっかいお尻、見入ってしまいます(智子)
河馬は見詰められて何を思ったか。春愁や春を惜しむ木元が隠れているような気がしました。(順一)
輿入れは二艘の小舟卯浪立つ 合田 憲史
輿入れの舟は瀬戸の花嫁の歌を彷彿とさせるが、卯浪立つは実景だと思うので、現実に引寄せていると感じる。(純夫)
芳彦、那智子
調教の馬の憩へる花の下 相沢 恵美子
尚、香誉子
惜春やトロンボーンを磨きゐて 今井 温子
トロンボーンのゆったりした音色と、去りゆく春の愁いの取り合わせがよいと思いました。(ユリ子)
玲奈
聖五月ロマの奏でるヴァイオリン 鈴木 楓
異国情緒たっぷりな句。(孝雄)
早・恵美子
絵唐津の飲み口薄き春夕べ 佐藤 博子
飲み口薄きの措辞から、ゆったりとした春の夕べの一刻が伝わってきます。(はま子)
博嗣
蛤の縞のうすべに貝供養 斎川 玲奈
手鞠
春深し老舗ホテルの重き椅子 児島 春野
老舗ホテルのロビーにある重厚な椅子に座ったことが季語と相俟って、快適さや安堵感として伝わってくる。(純夫)
蕗を刈る鹿角乙女の紺絣 鈴木 楓
如何にも秋田蕗らしい一句に詠まれています。(相・恵美子)
ルート66夏の海幸シカゴまで 髙橋 紀美子
鐘突かぬ鐘楼ひそと明易し 阿部 旭
青竹に幣のあかるさ籾を播く 斎川 玲奈
お捻り飛ぶ悪役のそば蜥蜴過ぐ 原 道代
那智子
見落とさぬよう水換ふる目高かな 片山 孝子
尚
一つ為し二つ忘れて春は行く 小高 久丹子
自分のことを言われているようで愉しい(眞五)
春惜しむ感が伝わって来ます。曰く言い難い春愁まで含まれているようで。(順一)
正明
早苗束抛るにリズムありにけり 熊谷 佳久子
手慣れた作業にふと見遣った作者。 (伊葉)
大変な作業も楽しく終わる、本能ですね。そのリズムは弥生の頃から?。(博子)
那智子
前職は前世に似たり金鳳花 中島 敏晴
恭子、玲奈
若葉吹くママの呼び声風に乗り 合田 智子
夏江
幌馬車の廻る湯煙花曇り 牧野 桂一
生き生きとした光る鱗が見えてくるようです。春ならでは。(伊葉)
蛇穴を出でて葬の列長し 明隅 礼子
蛇が春の陽気に誘われ穴から這い出したら、そこは途切れぬ悲しみの列であった。蛇の長さもさり気なく効いている。(ゆかり)
蛇のでれんとした長さと葬列が響き合っています。(博美)
緑さす左手走るノクターン 冨士原 博美
この曲の演奏には左手が鍵盤をリズミカルに走るようです。夜想曲ながら季語である初夏の若葉な爽やかさと連動します。(郁文)
東京大学の図書にあるショパンの石膏の左手でしょうか。(はま子)
百り子
花便り追ふて花旅ひとり旅 中川 手鞠
道代
茅葺の揃ふ廂やつばくらめ 芥 ゆかり
日本の原風景がここにある。(泰山木)
春の躍動感がよく表現されていますね。(ユリ子)
春野
家庭訪問燕のことが九割ほど 中村 光男
思い出しました。新担任の訪問時間前に玄関を掃除したり、花を飾ったり、いざ先生が見えると庭の犬が吠えまくり、躾のできていない犬の話で30分はあっという間。燕の頃でした(玲子)
燕が主役の和やかな家庭訪問でしたね。(はま子)
訪問を受けた家の軒先に、あるいは校舎に燕の巣がある。その話しで盛り上がる長閑な訪問の様子を想像しました(律子)
人はみな地球の過客鳥帰る 森山 ユリ子
「人口論」でマルサスが200年前に警告したように地球が支えられる人口より遙かに多い過客に環境破壊、飢饉、貧困、悪徳の発生など(眞五)
渡り鳥がこの地の過客であるように、人もまた現世の過客であるのではないか。「鳥帰る」の季語が深い。(敏晴)
地球の人口は800億人。日本では、東京以外の人口が減っていく。どうやって助け合うか。(茂喜)
季語とあいまって、一読、ロマンを感じました。願わくば跡を濁さない旅人であってほしい。(博子)
尚、温子、 正明、由紀子、真弓
ぬかづきし小さき白服じいじの忌 合田 憲史
志昴女
春寒し静脈逃げる注射針 熊谷 佳久子
看護師さんにも注射の上手下手がある。(泰山木)
史子、孝子、尚
落人を祖に脈々と畑返す 須田 真弓
上五の表現で情景がすべて理解できる句です。(郁文)
源氏との戦いに敗れた平氏の落人は国の各地で生をつないでいる。この町では畑作に命をかけた。(茂喜)
「脈々と」に祖への敬意や心意気が充分に示されている。(てつお)
平家の落人の子孫。「脈々と」でその様子が伝わりました。(佳久子)
祖谷の景が見えます(智子)
匠子、楓、日記、陽子
晩春の五徳の余熱鍋おろす 木村 史子
お豆を炊いたのかしら?季語が生きています(早・恵美子)
旭
昭和の日答は今も風のなか 岡部 博行
あの戦争はなんだったのだろうか。そう尋ねても風が吹いているだけ、そんな感じがよくわかる。(光男)
玲奈
良寛の母恋ふ歌碑や春霞 西脇 はま子
夏江、三枝子、春野
ヘルパーといつもの散歩黄金週間 野口 日記
いつものことを変わらずにできる 黄金の時と思います(久丹子)
新聞を折りて兜や風薫る 孝雄
勢津子
古戦場絮の蒲公英暮残る 山本 純夫
真弓
牛の目の朧に涙深く溜め 牧野 桂一
確かに牛は目を潤ませていることがある。何に対して潤ませているのか。そんな疑問が湧いてしまう。(光男)
博嗣
幼児はぽぽとたんぽぽ畦の道 山本 純夫
のどかな風景ですね(夏江)
田水張る月夜の陵の能褒野かな 松山 芳彦
お洒落な句ですね~!(早・恵美子)
志昴女
新築のマンション初夏のハーモニカ 早川 恵美子
新築のマンションと初夏のハーモニカの取り合せが斬新で意表を衝くが、納得感がある。(博行)
新しい生活を始める期待が初夏で感じられます。(博美)
初蝶や断層移動深々と 小高 久丹子
断層移動の恐怖とそれを存ぜぬ初蝶。初蝶は我々人間でもある。(てつお)
史子
糸解き香りも解く笹粽 佐藤 律子
笹粽を解いてさあ食べるぞという気持ちがうまく捉えられている。(光男)
解き解くのリズム感が粽が美味しそうです (幸子)
味わう前に糸に続き「香りも解き」と季節を堪能されている様子が伺われます(憲史)
勢津子、恭子
法廷に窓なし憲法記念の日 芥 ゆかり
憲法改正論議 窓のない法廷のような空間ではなく国民に開かれた場で行われて欲しいと思いますが…(久丹子)
法廷に太陽の光と五月の風が・・・・(美惠)
「窓なし」の意味するところが深い。(てつお)
閉ざされた現在の法の世界をよくいいあわわしている。憲法記念日が見事に生きている。(桂一)
由紀子、香誉子、日記、匠子
夜桜や大事なことを明かされる 中村 光男
「大事な事」に思いを馳せる。(孝雄)
夜桜の下で明かされる大事なこととは?想像を膨らまさせてくれます(律子)
衝撃的だったことでしょう。夜桜が緩和してくれたのかもしれません。(順一)
春霖や汽笛聞こゆる町に生れ 嶋田 夏江
かっては列島全土で聞こえていた汽笛 凍てていた列島に土を潤し草木を育て暖かさをもたらす春霖は汽笛が似合いました。(美惠)
春帽子迷ひに迷ひ公園へ 石川 順一
旭
神田川寄り添ふ二羽の残り鴨 岡部 博行
神田川・寄り添ふ・残り鴨の語の響きで、時代に乗れない切ない二人の雰囲気が迫ってきます。(敏晴)
正明
白壁の眩しき洋館夏近し 児島 春野
陽子
山城に諸説ふんぷん青蜥蜴 榑林 匠子
山城はロマンがいっぱい 青蜥蜴はつややかで妖しげで(美惠)
銀色の明けゆく空へひばり鳴く 妹尾 茂喜
香誉子
御衣黄や花の重たきたなごころ 岡崎 志昴女
楓
網代帆の遣唐使船風光る 荒木 那智子
芳彦
ドーナツの穴だけ残る四月馬鹿 早川 恵美子
「お皿にドーナツの穴残しておいたよ」と言われたら一瞬喜んでしまう四月馬鹿な私。いや、この句は意外と哲学的な句かもしれない。(ゆかり)
ドーナツの穴だけ残る?はて?すっかり作者の術中にはまってしまいました(律子)
史子
チェンバロの響く白夜の古教会 松山 芳彦
教会からチェンバロの響きが、北欧の町中の白夜の様子。(佳久子)
旭、日記
婚間近縁側の荷に蝶の来て 内村 恭子
蝶が祝ってくれているのか?名残を惜しんでくれているのか?私は祝ってくれている!と(憲史)
正治
見得を切る子ども歌舞伎に若葉風 原 道代
子どもの凛々しい姿に若葉風が似合います。(春野)
若葉風の季語がよく似合う。(ユリ子)
温子
若葉風日に拡げたる鷹の羽根 染葉 三枝子
紀美子
糸柳三味線復習ふ格子窓 石川 由紀子
芳彦
花の香やせせらぐほども水ゆかず 町田 博嗣
「せせらぐほども水ゆかず」、否定形の描写の確かさに感心いたしました。 (敏晴)
水平線遠くに置きて汐干狩り 中川 手鞠
遠近がはっきりと表現された句。中七の遠くに置きて が、洒落た工夫です(郁文)
広々として奥行きのある大景を描いている。日の光、潮風の香、波の音、足裏の砂の感触が伝わる。(博行)
湯治場の薄き灯や蕗のたう 小栗 百り子
中7と季語の取合せが効いています。(相・恵美子)
陽子、恭子
桜守蕊の降るまで見とどけり 山根 眞五
志昴女、道代
花疲れしてをり京間四畳半 町田 博嗣
江戸間と違い京間の広さが絶妙な雰囲気づくり上手に詠まれています。 (幸子)
つま先は遠き産土半仙戯 金子 正治
遠い産土への思い。せめて産土に向けぶらんこを大きく漕ごう。(肇)
三枝子
町老いぬ染井吉野も我も老い 金子 肇
町が老いにむかう。染井吉野も代替わりする。自分の命も代わる。生きることは嬉しくも厳しい。(茂喜)
孝子、百り子
旅の果て耕す人のなき畑 中島 敏晴
道代
饒舌な光を弾く炭酸水 佐藤 律子
炭酸水の弾ける泡はブツブツとしゃべっている。面白い見立ての句。(肇)
湧き立ち初夏の光に弾ける泡を「饒舌な光を弾く」と捉えた詩的感性に敬服する。(博行)
ぴちぴち跳ねる炭酸水を綺麗に表現しています。 (幸子)
立哉、手鞠、匠子
かさこそと息吹き返す紙風船 永井 玲子
立哉
永き日の鳶が輪をかく出雲崎 西脇 はま子
紀美子
SL百年花冷えのラストラン 佐藤 博子
博嗣、楓、由紀子、三枝子
算盤で計算の店花は葉に 嶋田 夏江
お店の金額計算が相変わらず算盤とは凄い。季語と対比させ、昔からの商売方法の継続を強く感じさせる。(純夫)
少なくなりました。見事な指捌き(智子)
老舗商家の矜持を感じます(憲史)
耳のかたち同じ親子やチューリップ 木村 史子
立哉、玲子
模様替え春風通す介護部屋 郁文
介護するほうもされるほうも双方柔らかい春の風で心も軽くなる。(伊葉)
春風通すで、爽やかで明るい介護施設を思い希望が持てます(孝子)
正治
古びたる見合写真や花は葉に 明隅 礼子
よくお持ちでしたね。心が和みます。(孝雄)
水鏡の大いなる月花の寺 石川 由紀子
紀美子
ふきのたう土蔵に母を恋ふる歌 永井 玲子
真弓
飛花落花喉の丸薬下がる間も 河野 伊葉
意表を突く発想の面白さ。実体験?(肇)
一刻一刻を胸に刻むように生きている人間の生が尊く光る。俳人は人生を深く生きている。(桂一)
喉の丸薬下がる間もは面白いです。思わずお茶を飲みました(玲子)
苦い丸薬を飲む時に、飛花落花を思い浮かべるなんて・・なんと対比の風雅なこと。(博子)
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