天為ネット句会報2024年6月

 

天為インターネット句会2024年6月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <福永法弘同人会会長選 特選句>

宿坊の枕が逃げて明易し                熊谷 佳久子

宿坊では寝る時間が早いから、朝も早く目覚める。「枕が逃げて」が秀逸。(法弘)

寝る前は頭の真下にあったはずの枕が起きれば別の場所に移動している。宿の枕と相性が悪かったという「あるある」か、あるいは寝相が相当悪かったのかもしれない。(ゆかり)

匠子

走り梅雨美濃のからかさ連判状             石川 由紀子

首謀者をわからなくするため、傘の形に決起の連判状を書いたものがからかさ連判状。梅雨が長引いて凶作の予感。(法弘)


  <福永法弘同人会会長選 入選句>

万緑の中に息づく無言館                合田 智子

戦没画学生慰霊美術館(無言館)が万緑の中、ひっそりとたたずむ。饒舌より無言の絵が勝る。(法弘)

遺された彼らの作品の息づかい 青春と万緑が響きあうようです(久丹子)

無言館に収蔵されている戦没画学生の絵が生命力溢れる万緑の中で息づき声を発し続けている。合掌。(博行)

いろいろな思いの籠もった無言館に息づくがいいですね(夏江)

無言館と万緑の中に息づくの表し方いかにも冬の間はひっそりとしていて万緑の頃やっと息をしているとはすばらしい(みつ子)

「万緑に息づく」の表現が素晴しい。(ユリ子)

楓、伊葉、道代、日記

ゲル出でて大草原の虹に立つ              中村 光男

モンゴルの青き狼、ジンギスカン。(法弘)

モンゴルの大草原が見えてくる。(芳彦)

壮大な草原の景。虹も鮮やかで美しかったでしょう。(ユリ子)

上5が効いています。大草原に立った見事な虹が見えて来ます。(相・恵美子)

楓、那智子

老人が先頭でゆく蛍狩                 上脇 立哉

昔取った杵柄。童心に帰って。(法弘)

「老いては子に従え」、蛍狩は別。(孝雄)

蛍という儚げな生き物と元気一杯の老人の対比の妙。俳味に溢れた句。(博行)

現代の老人とは、しかも先頭でゆく…老人の定義を考える蛍狩(百り子)

勢津子、匠子

リラ冷えや沼地に戻る開墾地              土屋 香誉子

先祖が苦労して耕地にした土地が、再び自然に帰ろうとしている。切ない。(法弘)

明治政府の肝入りで北海道開拓使が開墾した土地が、人口減少で元の沼地に戻ろうとしている。(泰山木)

大変な苦労をされて開拓した地の現実。SFのような未来が待つのみか・・(博子)

立哉、順一

安曇野の水あるところあやめ草             髙橋 紀美子

安曇野の光景が目に浮かびます。(法弘)

清らかな水の安曇野の様子がいいですね。(佳久子)

博嗣

古文書の読み解き講座若葉萌ゆ             嶋田 夏江

京都の塔頭でこの頃、よく行われている講座。いにしえ人との対話が楽しめる。(法弘)

古文書の講座頭使いますね若葉萌ゆすっきりします(みつ子)

てつお

ぎこちなき家庭教師や新樹光              木村 史子

大学生になったばかりの初々しい学生が家庭教師にやって来た。(法弘)

勢津子、春野

木下闇かご抜け鳥の太き声               榑林 匠子

ペットとして買われていた外来の鳥が籠から抜け出して野生化したものが外来害鳥。生態系を脅かす危険な存在。太い声が不気味だ。(法弘)

立哉

パスワードつい口をつき青葉風             泰山木

ご機嫌のよい証拠でしょうが、気を付けないと、誰かが聞き耳を立てているかも。(法弘)

恭子

黄あやめや姫伝説の石一つ               斎川 玲奈

姫伝説は全国あちこちにあるが、ほとんどが悲劇。黄色いあやめが沼か池のほとりを暗示している。(法弘)

 

   <互 選 句>

また少し山のふくらむ五月雨              日根 美惠

「山がふくらむ」に惹かれました。五月雨ともよく合う。(肇)

ひと雨毎に木々の枝葉が生い茂ってゆく。山がふくらむという表現の生命力がよいと思う。(ゆかり)

五月雨に山がふくらむのはよくわかります。(敏晴)

樹々の成長を”ふくらむ”と表現しているのが良いですね(智子)

メタファーが素敵です。美しい四季の一コマですね。(博子)

春野、楓、百り子

武蔵野に無口な店主桜桃忌               芥 ゆかり

武蔵野を愛した太宰治 武蔵野は太宰の聖地 「無口な店主」がまた太宰らしい(美惠)

毎年の人出に辟易している太宰の墓所の近くの店の店主。昨今のオーバーツーリズムへの批判とも。(博行)

武蔵野と”無口な”が相まって季語を一層深めている気がします(憲史)

那智子

うっすらと生え初むる髭緑さす             嶋田 夏江

思春期の少年の成長、緑さすという季語で清潔感も感じます(律子)

ヴァイオリン教師屈みて薔薇を嗅ぐ           土屋 尚

ヴァイオリン教師を登場させた技量に感服しました。(敏晴)

雨蛙この世を歎く面構え                光枝

雨蛙の面構えといわれるとぴったりの感じがする。(桂一)

噴水は天に放てる感嘆符                早川 恵美子

言われてみると、噴水が感嘆符に見えてくるのが不思議です。(純夫)

由紀子、陽子、尚、紀美子

守護神は紫陽花アプト式鉄道              石川 由紀子

紫陽花を安全を守る守護神と捉えた点が効いていて、赤と白のアプト式鉄道と紫陽花の綺麗な景が見えて来ます。(相・恵美子)

孝子

街は今多国籍群修司の忌                小高 久丹子

弘前で生まれた寺山修司は多才な能力を見せ、若くして去った。人口減少が続く日本の生きる道は?(茂喜)

陽子、てつお

穂麦田を追ひつ追はれつ風駆くる            今井 温子

伊葉、正明

頬杖の小悪魔笑むや巴里祭               佐藤 博子

フランス映画の小悪魔たち 小悪魔カトリーヌドヌーブの可愛らしさに圧倒されました。(美惠)

籠いっぱいこごみを母に届けたし            永井 玲子

お母様はこごみが好物でいらしたのでしょう。一句に作者の優しい思いが込められています。(相・恵美子)

初夏やチャイを出されて買ふ土産            内村 恭子

もてなしで旅行者の心を開き、買物をしてもらうのは万国共通。季語の解放感と呼応している。(純夫)

繭といふ漢字の中に繭ごもり              芥 ゆかり

3方と真ん中を囲んでいる繭、納得です。(博美)

繭という字の中の虫は蛹でしょうか。頓知のようで面白い発想だと思います(律子)

紀美子

旅ひとりバックミラーの夏木立             中島 敏晴

ひとり旅の抒情はバックミラーのなか。夏木立がよく似合う。(ユリ子)

孝子

青葉風麒麟の首を擽れり                相沢 恵美子

”麒麟の首を擽れり”作者の感性に驚愕です(憲史)

香誉子、順一

薔薇を手に背筋伸ばして行く男             児島 春野

どこへ行くのでしょうか。緊張感が伝わってきます。(光男)

老鶯や信州古寺の苔の段                合田 智子

まさに古寺のおもむき。老鶯がぴったり。(佳久子)

志昴女

青葉風柵一列に牛の顔                 相沢 恵美子

牧草に吹く青葉風、牛の心地よさそうな顔が目に浮かぶ。(郁文)

牛の顔それぞれの表情までも浮かんでくるようです。(伊葉)

史子、道代、手鞠、夏江、日記

潮騒のような風音藍を刈る               日根 美惠

香誉子、志昴女、道代

夏めくや甘味処のショーケース             野口 日記

色鮮やかなメニューの食品サンプル。お汁粉などからかき氷やゼリーに変わっていたのだろう。それに気づいて夏の始まりを感じた。(ゆかり)

季節を彩る和菓子が美味しそうに並んでいる景がうかびます(智子)

季節毎にメニューを変える甘味処。思わずあそこかしら?ここかしら?と・・初夏の季感がたっぷりですs。(博子)

恭子

セザンヌの田園遥か麦の秋               中島 敏晴

セザンヌの麦の田園の油絵が目に浮かぶ。(芳彦)

正明

どこまでも空どこまでも夏畑              中川 手鞠

何処でしょう、大きく呼吸したくなりますね。(春野)

田舎の広い畑が息づいています(みつ子)

すひかづら母校を抱く森の風              荒川 勢津子

忍冬の花は白からやがて黄色に変わる。母校の新校舎も積年の色に変わっている。なつかしき風。(茂喜)

塩釜に融が丘や落し文                 荒木 那智子

光源氏のモデルと言われている源融ならば落し文も沢山落ちていそう・・・京都に塩竃ゆかりの史跡がありました。(博子)

御持たせの八十路の姉の豆の飯             合田 憲史

手作りの手土産をくれた80歳の姉さんの元気な様子が伝わる。(純夫)

微かなる恥ぢらひ沈め水中花              佐藤 律子

ゆらゆらと揺れている情景が分かります。(博美)

水中花の周りの感情はいつも微かに感じます。(敏晴)

由紀子

屋上の真夏のジャズにアンコール            原 道代

正治

雑貨屋が店頭に出す夏帽子               上脇 立哉

手鞠

留学生を囲む制服ソーダ水               野口 日記

博嗣

ブラームスはお好きときかれ夏の夕           髙橋 紀美子

正治

草苺ついと悪女に手を出して              冨士原 博美

頼りなげで可愛い草苺 悪女と知りつつ?手を出したくなるお気持ちわかるような(久丹子)

あぶない!大丈夫?(早・恵美子)

山並は果て迄見えて風五月               児島 春野

那智子

腕組みの形にたたむサングラス             中川 手鞠

言われてみると確かに腕組みの形になっている。面白い発見。(光男)

いわれてみるとなるほどです。(肇)

成程!感心いたしました(早・恵美子)

思わずサングラスをたたんでみました。確かに!腕を組んでいるように見えます(律子)

由紀子、尚、匠子、史子

ほうたるや闇夜にゆらりかなを書く           中村 光男

静かな空間に万葉集でも描いているのか蛍ならではの景。(郁文)

蛍の光の軌跡が仮名文字のようだという幻想的な着想が素晴らしい。(泰山木)

ほたるの描く光の線とかなが呼応するのでしょうか(夏江)

恭子

大陸を追われて老ゆる草の花              松山 芳彦

博嗣

家古ぶ住みつく蟇の少し痩せ              山本 純夫

歳を重ね 主も蝦蟇も「少し痩せ」が年輪を・・・ いい顔になっていらっしゃる(美惠)

蟇が痩せたのがわかるとは。地霊的存在。これからも大切にしてあげて下さい。(肇)

勢津子

返信を待つて三日目河鹿笛               金子 正治

順一

漁を継ぐ旗を真つ直ぐ夏立てり             牧野 桂一

てつお

万緑や句集に眠る師のサイン              小栗 百り子

樹々は緑に染まり、師の句集を胸にする。見開きには師の香とサインがある。全句集も出来た。(茂喜)

正明

火蛾乱舞最果ての地の湯守かな             合田 憲史

ひなびた最果ての地で風呂に入っているのでしょう。鄙びた素朴な景が見えてきます。(光男)

最果ての地の火蛾乱舞というのに迫ってくるものを感じる。(桂一)

マーガレットおとなの習ひ事たのし           木村 史子

破調がたのし!(早・恵美子)

志昴女

朝掘りの筍腕に地の温み                岡部 博行

下五の「地の温み」から旬のタケノコが実感できる。(泰山木)

正治、百り子

片影を急ぐ締切日のポスト               荒川 勢津子

日記

青畳香る立夏の客となる                今井 温子

新築のお宅に招かれたのか、小津映画を垣間見る。(孝雄)

香誉子、紀美子

青葉風日の斑のゆるる切通               金子 肇

青葉の中に揺れる日の斑が美しい。切り通しとも良い響き合いがある。(桂一)

郁文

密室の蝿一匹の羽音なり                佐藤 律子

蝿の存在感 小さな体で半端ないデシベル 無聴できません(久丹子)

何も聞こえない、動かない部屋は蠅の動きさえ聞こえるのでしょう。(博美)

陽子、手鞠

つれあひの薄き紅ひく螢の夜              垣内 孝雄

幾星霜つれあってきたのでしょうか?”薄き紅ひく”に深い愛情を感じます(憲史)

屹立のビルのあはひを蟻の列              鈴木 楓

屹立するビルの谷間に蟻が列をつくっていたという。(芳彦)

都会の蟻たちは大変ですね。(佳久子)

尚、史子

夏めきて海恋ふ色の吹き硝子              熊谷 幸子

琉球硝子を想起する。(孝雄)

人はみな館へ向かふ薔薇の雨              竹田 正明

孝子

蟹走る潜望鏡の目みひらき               熊谷 佳久子

立哉

遠き日の下校子草の笛吹いて              荒木 那智子

なつかしい下校の様子ですね(智子)

                       以上


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