天為ネット句会報2024年7月

 

天為インターネット句会2024年7月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <日原 傳編集顧問選 特選句>

梅雨深し古伊賀の壺のひしやげやう           内村 恭子

伊賀焼は旧伊賀上野領一帯で作られた陶器の総称。「古伊賀」は主に桃山時代の作品で、古田織部好みのデフォルメや力強い箆目、激しい窯変、青翠色のビロード釉に特色がある。掲句はその大胆なゆがみを「ひしやげやう」の語で言い留めた(傳)。

梅雨空とひしゃげた壺の取り合わせが、絶妙と感じました。(ともこ)

てつお

簾編むときどき強く糸を引き              明隅 礼子

「簾」は夏の季語。掲句は「葭簾」を編む現場を訪れての作であろうか。いろいろな工程のなかで編む糸を強く引いて形を整える瞬間に焦点を当てた。臨場感がある(傳)。


  <日原 傳編集顧問選 入選句>

諳んじる路線駅名夏休み                山本 純夫

子供の記憶力は素晴らしい。路線駅の名を諳んじている。夏休みの楽しい思い出だ。(光男)

休みで行った路線の駅名だろう。旅の楽しさが伝わってくる(肇)。

夏の家族旅行の準備中(智子)

茂喜、立哉、由紀子、手鞠、尚、香誉子、恭子

仮名書きのやうに流れて姫螢              斎川 玲奈

仮名書きの書に親しんでいらっしゃる方の感性と感じました。(敏晴)

姫蛍が飛んでいる姿が仮名書きを見るようであったと言うことから、その美しい姿が目に浮かんでくる。(桂一)

やさしくあえかな曲線 和泉式部の歌の蛍もこのように流れていたのかもしれません(久丹子)

三枝子、陽子、酔猿、玲子、手鞠、はま子

水槽の銀のアロワナ梅雨の月              石川 由紀子

息子が以前アロワナを飼っていました。ゆったりと光るその姿と、梅雨の月が響き合います。(美穂)

史子、温子、玲奈、百り子

古簾潜りて元祖佃煮屋                 相沢 恵美子

谷中の元祖佃煮屋を思い出しました。子供のころ祖母に連れられた想い出が蘇える。(芳彦)

博嗣、道代

七変化文字に尽くせぬ色ばかり             児島 春野

次第に変化する紫陽花の色を文字で追うのは難しい。(泰山木)

七変化の名の通り色合いが変化していく不思議な花。どの色合いも微妙で表現しがたいですね(律子)

百り子

玄奘の天竺の道西日濃し                鈴木 楓

夏江、玲奈

赤ひなげし丘一面にウクライナ             髙橋 紀美子

ウクライナの雛罌粟畑は知りませんが、イタリアのアシジで見ました。息をのむ風景ですね。(ユリ子)

侑里

鎌倉の寺を呑み込む緑かな               金子 肇

勢津子、匠子

アトリエの仏蘭西窓や青時雨              西脇 はま子

「もの」に語らせるお手本の句。(孝雄」)

斜陽館のゆがむ硝子や梅雨寒し             髙橋 紀美子

波打つ大きな硝子のゆがみが斜陽という言葉の響きと梅雨寒の皮膚感覚に相応しい。(博行)

玄奘の通りし南路夏嵐                 熊谷 佳久子

日記

ビル谷間水神様の濃紫陽花               井上 澄江

踏まれつつ邪鬼の目遠く鉾囃子             日根 美惠

由紀子

芍薬に雨降りしきる今日もまた             片山 孝子


銅鐸は神呼び招き麦の秋                西脇 はま子

 <互 選 句>

億年の淘汰を生きて御器噛                芥 ゆかり

確かに人間よりはるかに長い歴史を持つゴキブリ このように詠まれるとは彼らも面映ゆく光栄では(大の苦手ですが)(久丹子)

夏落葉踏む音響き札所径                 原 道代

昔はよく使われた、車が通れない細道を思います。(春野)

睡蓮に光集まる雨後の池                井上 澄江

雨あがり、辺りも明るくなり、一層色鮮やかになる睡蓮を思い浮かべました。(美穂)

孝子、酔猿、勢津子

縁側に帯の散華や虫干す                相沢 恵美子

立哉

律令の使役の文字に紙魚走る              内村 恭子

古文書をみていたら紙魚が走ったという景。古い世に引き込まれているようだ。(光男)

奈良時代の政府に仕えた人達はどんなお仕事をなさっていたのでしょうか・・・(美惠)

紙魚走りゐる最澄に空海に 橋本栄治 という句もあり澱粉あるところならどこへでも 紙魚の忖度なさ 自然にはかないません(久丹子)

古文書の虫干し? 既に紙魚が走るとは由々しき事態  (温子)

「使役の文字」にフォーカスしたところがよい。使役を課せられた当時の人々の嘆きを紙魚に託した。ついでに食べてもらえるとよいですね。(ゆかり)

博嗣、那智子、匠子

ベランダの髪梳く女や梅雨兆す             阿部 旭

侑里

浮人形気づけば父の真似ばかり             牧野 桂一

史子

影連れていま緑陰に休みをり              上脇 立哉

緑陰に入る事があるが、影連れてとは当然のことであるが上手く表現している。(芳彦)

暑くなりましたすぐ緑陰探す分かります(みつ子)

炎天下、影もきっと安らぎを。   (郁文)

ピーターパンの影のよう。一心同体の影と安らぐひとときですね。(博子)

手鞠、楓、真弓

夏蝶とゐていつまでも黙りをり             明隅 礼子

夏蝶と「黙りをり」の微妙な関係が不思議と納得できます。(敏晴)

そんなこともう忘れたわ水中花             熊谷 幸子

酔猿、三枝子

しづまりし神饌田の余り苗               榑林 匠子

神事である賑やかな「御田植式」の後、静まり返った植田の片隅に寄せてある余り苗に注目した点が効いています。(相・恵美子)

ダム湖より移築の寺の草いきれ             染葉 三枝子

ダムの建設のために沈んだ寺でしょうか。その寺も今では草に覆われている。ダムは村のこころの拠り所まで奪ってしまった。(桂一)

ダム建設の為に移された寺、どうしようもない気持ちが草いきれに語られています。(博美)

八ツ場ダムを思いました  (幸子)

正治

割れ甕の水に虫湧き半夏生               阿部 朋子

由紀子

フジコヘミング逝くや五月の鐘の音に          森山 ユリ子

ラ・カンパネラの曲が私の耳元にも。しみじみした句。(佳久子)

波瀾万丈の人生を歩まれたピアニストのフジコヘミングさんに愛のある追悼句です。  (温子)

侑里、三枝子、玲奈、日記、はま子、真弓

梅雨深き尾瀬円かなる草地かな             町田 博嗣

梅雨の尾瀬、草原がまろやかに感じた作句者の感性に拍手。(郁文)

起し絵の腰のふらつく十手持ち             今井 温子

起し絵の庶民的な楽しさが伝わってくる。(泰山木)

なんと可笑しい愉快です   (幸子)

季語の起し絵は最近廃れたと歳時記にあったが、文具店の暑中見舞で売られていました。紙の折目による弱点を軽妙に表現し巧みです。(純夫)

立哉

夏空や一段とばし駆けあがる              木村 史子

中7に元気のよい作者と一句の勢いを感じます。(相・恵美子)

一段とばしが季語と響き合っています(早・恵美子)

香誉子、玲子

ボクシングジムの子燕声出さず             石川 順一

ボクシングジムの軒先の巣にに生まれた子燕たちもジムの新入生たちも熱気に圧倒されて・・・・ガンバレ(美惠)

燕も子供達も巣立つまで大切に見守っているジム。いつかはチャンピオンが出そうな!(博子)

志昴女

蠅叩き昭和の残る雑貨店                郁文

ブリキのバケツ、たわし、はたき等懐かしい清掃用具が並んでいる景がみえます(智子)

個人営業の雑貨店でしょうか。昭和を感じさせる商品を見つけ、郷愁を感じる気持ちが伝わります。(純夫)

夏江、はま子

月凉し妻と一献かたむけぬ               垣内 孝雄

道代

エルサレム嘆きの壁の夏の雲              松山 芳彦

私の思い出のなかにもある映像。くっきりと強いです。(ユリ子)

晴れ晴れと瀧見し人ら戻りくる             上脇 立哉

滝の神聖なマイナスイオンに触れたら、誰しも悩んでいた事がちっぽけに感じられて晴れやかな気分になれた。帰りは足取りも軽い。(ゆかり)

上5が効いています。清々しい滝を眺め飛沫を浴びてくる人は正に晴々しく感じます。(相・恵美子)

紀美子、恭子

感嘆符付けて静止す瑠璃蜥蜴              佐藤 律子

トカゲの姿が目に浮かび、クスッとなりました。(ともこ)

緑雨かな迷子の髪の濡れてをり             永井 玲子

陽子

身じろがぬ蟇をにらみて根負けし            片山 孝子

蟇とのにらめっことは、面白かった。(佳久子)

男振り見直しにけり溝浚へ               冨士原 博美

年に一度の共同作業で、意外な男が大活躍。ありそうです(肇)。

夏江

父の日の父は素知らぬ振りをして            岡部 博行

照れやさんなお父様なのでしょうか。きっとこの後、父の日をご家族さまで祝われたことと想像します。(美穂)

昔の男はこんなもんだった。  (郁文)

孝子、香誉子

空の青うつしおほせぬ青田かな             佐藤 博子

稲が成長し緑を増して田の水面を覆い尽くしている様が上五中七の措辞により大きく描かれている。(博行)

父母のそんな昔の蛍籠                 てつお

麦わらで作る螢籠は蛍の明かりが透けて見えるロマンティックなもの。『そんな昔の』の表現もまた惹かれます(律子)

五月雨の傘をはみ出すおんぶの手            石川 由紀子

史子、春野

雨音にどこか落ち着く梅雨の入             嶋田 夏江

博嗣

道をしへ秘密数多の江戸の地図             金子 正治

古地図は物語りがいっぱい詰まっていて時間を忘れます(美惠)

確かに江戸の街は複雑だ。その地図を教えてくれるごとく道おしえが前を行く。面白いところを捉えた。(光男)

江戸を道をしへに案内してもらえれば楽に進めるかも~ですね。(博美)

那智子

小器用に髪結ひあげて夏祭り              合田 智子

粋なお方、神輿を担がれるのかな。(孝雄)

断捨離はまだ先のこと土用干              中村 光男

人生まだまだ先は長い。(泰山木)

断捨離ブームに反発し活動の範囲を縮小するつもりのない作者の心意気が土用干に表われている。(博行)

大西日ぐらり傾く摩天楼                早川 恵美子

真弓、楓、てつお

牛蛙鳴いて卒塔婆の暮れ残り              阿部 朋子

紀美子

青梅雨や外人墓地の募金箱               野口 日記

外人墓地の募金箱とは意外性あり。(芳彦)

春野

鬼太郎が鱧の骨切る夜更けかな             中川 手鞠

志昴女、匠子

真つ赤なるムンクの叫び終戦日             金子 正治

終戦日の現実は、今も世界に平和を呼びかけている。それはまさに「真っ赤なるムンクの叫び」というにふさわしい。(桂一)

ムンクの「叫び」の場所に立ったとき、秋夕焼が真っ赤だった。(佳久子)

真っ赤なる 不安が極限に達した叫び終戦日で全てが終わった。(百り子)

果実酒の瓶をゆすりて梅雨籠              野口 日記

美味しいお酒が出来そうですね(早・恵美子)

那智子、恭子

昨年は恋をしてたの夏帽子               森野 美穂

夏帽子の語り素敵です きっとつばの広い良く似合うお気に入りなのですね     (幸子)

ストレートな表現、真っ直ぐに届きます。夏帽子で女性像がより鮮明になります(律子)

淡~い恋でしたか!帽子は何色だったのかしら?(憲史)

まっすぐな表現のなか「夏帽子」に抒情あり。(ユリ子)

昨年は、色々あって雲隠れ?!と深読み。「夏帽子と恋」で爽やかに再登場ですね。(博子)

陽子、玲子、正治

病衣の香水その人たらしむる              木村 史子

素敵な患者さんです~(博美)

翡翠の真昼を沈思黙考す                佐藤 律子

沈思黙考が効いてます(みつ子)

紫陽花のほどよき目線車椅子              郁文

紫陽花は車椅子の方にとってほどよい高さに咲いているという素晴らしい事実を教わりました。(敏晴)

車椅子だと紫陽花が顔の高さに来る。車椅子の人の詠んだ感謝の句とも思える(肇)。

ほどよき目線先日車いすに乗って観光したので目線の高さ分かります(みつ子)

茂喜、孝子

献体碑に愛の一文字合歓の花              斎川 玲奈

献体は医学関係者など、一部の人以外は目にすることのないテーマ。季語合歓の花を配し、明るさや希望を持たせていると感じた。(純夫)

道代、勢津子

噴水を見ればコインを投げる癖             中川 手鞠

夢みる二十代からずっ~と続いている習性?願掛けはずっ~と続けてください(憲史)

口ずさむ駅のピアノと夏の風              齋藤 みつ子

正治

リバイバル映画に浸る梅雨の午後            荒川 勢津子

自分だけの時間はたまにはいいですね(智子)

怖きもの虎に翼やはたた神               山根 眞五

並列された言い回しが上手ですね(早・恵美子)


向日葵の垂れて人無き消防署              土屋 香誉子

同じ風景に出会ったことがあるような、懐かしさを感じました。(ともこ)

白南風の島に漂流郵便局                合田 憲史

志昴女

先人の教への地名梅雨出水               芥 ゆかり

てつお

十薬の猿寺杉田玄白墓                 染葉 三枝子

紀美子

幼子の稚魚もて並ぶ川開                泰山木

「放流のセレモニー」、良いですね。(孝雄)


梅雨晴間遺影はみんな笑ひ顔              中村 光男

茂喜

江戸古地図たどる白靴富士見坂             合田 憲史

白靴から散歩を楽しんでいる作者が見える。下五も巧みで、かつては富士山が見えた故の命名だったが今は・・・という時間の経過も感じられた。(ゆかり)


炎天の函谷関の第一楼                 鈴木 楓

日記

雨を待ちあぢさゐ所在なげな色             岡部 博行

「所在なげな色」・・・この言葉に何故か惹かれました(憲史)

以上

ホームへもどる 句会報へもどる