天為ネット句会報2024年9月

 

天為インターネット句会2024年9月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <日原 傳編集顧問選 特選句>

亡き人が隣に座る端居かな               上脇 立哉

端居をしながらもの思いにふける作者を想像した。昔のことが思い浮かび、亡き人が隣にすわっているような幻想に導かれたのであろうか。〈まどろみの覚めてかなしき端居なる 林原耒井〉〈端居せるこころの淵を魚よぎる 野見山朱鳥〉といった句がある(傳)。

端居で思いを巡らせておられるご様子が伝わります(美穂)

道代、百り子

阿里山の阿呆列車や霧しぐれ              佐藤 博子

「阿呆(あほう)」は「阿房(あほう)」と同じだが、句意からして表記は後者の方がよいだろう。「阿房列車」は内田百閒の紀行文の題名。百閒は鉄道に乗ることのみを目的に鉄道旅行をした。「阿里山」は台湾の嘉義市にある連山の総称。嘉義駅から阿里山森林鉄路が通じている。作者はその森林鉄路に乗ったのであろう。百閒に倣って鉄道に乗ることを目的に旅したというのである。海抜三十メートルの嘉義駅から二千三百メートルを越える高所まで登ってゆく急峻な鉄路。標高にしたがって植生が変化するのも見もの。そして「霧しぐれ」に包まれるような別世界に至ったのである(傳)。

朋子

  <日原 傳編集顧問選 入選句>

蝦夷富士の裾晴れ渡り薯を掘る             熊谷 佳久子

さぞや美味しいじゃが芋が収穫できたことでしょう。(てつお)

独立峰の蝦夷富士(羊蹄山)の雄大さと、その裾野に広がる東京ドーム何倍分かの名産じゃがいも畑が懐かしい(憲史)

雄大な蝦夷富士、しかも青空。馬鈴薯も豊作だったことでしょう。ほくほくの新ジャガの美味しかったこと。(博子)

三枝子、 那智子

宵闇や堂に息づく伎芸天                日根 美惠

「息づく」が伎芸天の心情を物語っているようです。(博美)

深夜に出るさやかな月を伎芸天も待っているようです。(春野)

立哉、三枝子

能舞台濡らして飛騨の霧迅し              斎川 玲奈

手鞠、香誉子、泰山木、百り子

天平の甍の先の白鳥座                 斎川 玲奈

古代、その先の億年の時が伝わってくる。(光男)

天平の甍は白鳥座との関わりがあった。時代の深さが一句を大きなものにしている。(桂一)

正明、旭

マイセンの白きマリアに秋澄めり            森山 ユリ子

磁器で有名なマイセン。人形は見たことがあるが、これはマリアさま。「白き」に秋澄む感じがよくでている。(佳久子)

マイセンの白いマリア様。心の中まで、澄み渡るようです。(はま子)

陽子、那智子

京終は京の入口月明り                 今井 温子

都の優美をはんなりと詠まれています。  (幸子)

今は無人駅だが、嘗ての繁栄を思い起こさせてくれます。(純夫)

道代、真弓

谷深く影を落として秋遍路               阿部 旭

谷深くの設定に信仰の深さも感じる。(桂一)

春の遍路と違い秋遍路の粛々としたさまが「影を落として」によく表現されている(ユリ子)

春野

ベロを出すアインシュタイン残暑かな          阿部 旭

この猛暑続きにさすがの天才学者もお手上げか。  (郁文)

あの有名な写真は暑さ故だった?作者の大発見!(肇)

この異常気象、アインシュタインも舌をだしますね.(はま子)

高麗笛や月読祭の男舞                 西脇 はま子

どこの月読神社か解りませんが、月を愛でる優雅なひとときを共感しました。(博子)

正明

出来秋やひときは高き矮鶏の声             相沢 恵美子

玲奈、順一

鑿跡の青の洞門秋あざみ                佐藤 博子

楓、春野

縫い目なき天部の衣つづれさせ             小栗 百り子


源流の浅瀬掠める墨とんぼ               荒川 勢津子

 <互 選 句>

正午前汗だくだくの音読よ               門司 侑里

史子

風向きを鬼の子に問ふ夕べかな             竹田 正明

鬼の子なら夕方の微風にも風見となりそう(肇)。

蓑虫のゆらぎに風向きを尋ねる風流と可笑しさ面白いです  (幸子)

陽子、玲子、三枝子

心にも重さの有りや海月浮く              井上 澄江

無重力の中を漂っているような海月を眺め、自分の心の存在を内省する作者に共感する。(博行)

由紀子

秋の蝉ゆるゆると鳴く母の里              中島 敏晴

母の里に鳴く秋蝉と「ゆるゆる」の修辞が深く心に沁みる。(孝雄)

余命の友まっすぐ生きよ雨台風             齋藤 みつ子

正治

爽籟や金地微かな曼陀羅図               山本 純夫

修復された神護寺の高尾曼荼羅か。爽籟と曼荼羅図の微かな金地が仄暗さの中で静かに響き合う。(博行)

楓、玲奈

野仏の泪目きらり野分あと               合田 憲史

道代、日記

三方ヶ原台地に真直ぐ大根蒔く             榑林 匠子

三方ヶ原は嘗ての戦の地、そこに大根を「真直ぐ」蒔くという。何か強い思いのようなものを感じさせる。(てつお)

泰山木

旱魃もかくありなむといふひでり            嶋田 夏江

勢津子

八月や黙から紡ぎ出す言葉               岡部 博行

由紀子、尚

恙なき傘寿の便り秋澄めり               鈴木 楓

傘寿を迎える人はハッピーであり、またラッキーな人だと思います(眞五)

残暑見舞いでしょうか? お元気なお年寄りからの便りに元気を頂きます(智子)

紀美子

点字譜を辿る銀河に触るるごと             早川 恵美子

点字譜を辿って、銀河に触れる思いがした。ロマンチック。(芳彦)

星々の配列のごとき印を読むことは、銀河に触れ宇宙の意味を読むがごときことなのでしょうか。(敏晴)

「銀河に触るる」が繊細な措辞で綺麗な景が見えてきます。(相・恵美子)

「銀河にふるる」に点字譜の内容が見えてくる。(桂一)

点字譜の無数の点を、天の川の無数の星と見立てたことのすばらしさ。(てつお)

銀河に触ることなんて出来ないと思っておりましたが、この句により、触ることが出来たように思います。(はま子)

勢津子、尚、玲奈、旭、伊葉

長き夜や二度見てわかるミステリー           金子 肇

全く同感です。   (郁文)

史子

ダリの髭下向きになる残暑かな             髙橋 紀美子

上向きの見事な髭が、残暑で下向きになるとは面白い見方の句でした。(佳久子)

八の字にはねるダリの髭もこの暑さに参ってしまったのですねぇ(幸子)

志昴女

初秋や名刺余白の走り書き               佐藤 律子

勤めていた頃を思い出しました(美穂)

紀美子、伊葉

稲妻や影絵のごとき大東京               泰山木

稲妻に浮かび上がってい来るビル群の東京の姿が、影絵という言葉で上手く捉えられている。(光男)

影絵のごとくの描写が情景をよく捉えている。  (郁文)

ビル街のダイナミックが影絵が見えてきます。(相・恵美子)

手鞠、尚、旭

透明のピアスに白衣休暇明               木村 史子

立哉、匠子

冬瓜の厨に座して十日かな               髙橋 紀美子

冬瓜も西瓜と同様でっかくて 美味しいのに少人数では料理を始めるのに躊躇します。厨に座して十日 実感です。(美惠)

冬瓜と10日、楽しいお句だと思いました(美穂)

孝子

銀漢やカムパネルラの席何処              森野 美穂

恭子

蜩や明かりの点る海人部落               相沢 恵美子

澄江

じゅんさいも海老もほどよき冷さうめん         小高 久丹子

具沢山の冷素麺!ごちそうさまです(智子)

孝子

山頂に郵便ポスト鰯雲                 熊谷 佳久子

山頂からの便りいいですね(みつ子)

苦労して登った山頂に広がる鰯雲、なんと爽やかなことでしょう~誰かに知らせたいですね!(博美)

正明

億年の静寂を星の流れけり               中村 光男

楓、陽子、手鞠

お浸しの小松菜堅き残暑かな              岡崎 志昴女

孝子

棚経に孫の小坊主引き連れて              冨士原 博美

子でなくて孫が一緒というのが良い。寺の継続も安心。(肇)

香誉子

夜は灯を朝は陽を恋ふ金亀子              土屋 香誉子

光を恋うコガネムシの天命は時を問わず働き続けざるを得ないのでしょうか。(敏晴)

恭子、真弓

秋燕湖の畔の阿弥陀堂                 垣内 孝雄

日記

声明の誘ふ眠気や施餓鬼寺               金子 肇

志昴女

物置かぬ朝の卓の辺涼新た               森山 ユリ子

物がない卓はそれだけで涼し気ですが ほんの少し秋めいた気配を感じるのも人ならでは (久丹子) 

伊葉

戦争てふ消えぬ言葉よ星流る              野口 日記

夏江

浅草に幽霊話夏芝居                  須田 真弓

立哉

蝉の声あふれる大樹影深し               郁文

澄江

虫の秋ワインを愛でる師の便り             金子 正治

作者もまた師と同様にワインを愛でる方ではなかろうか。誌の文を読む虫の夜。(孝雄)

順一

そよと吹く風の咲かせし稲の花             榑林 匠子

朋子

飛び違ふピカソの貌や稲光               早川 恵美子

那智子

十津川の福を分け合ふ秋神事              松山 芳彦

玲子、真弓

麺房の裏庭寂とちちろの音               河野 伊葉

朋子

蜩や小町通りの小間物店                永井 玲子

小町通りあたりの風情が感じられる。(孝雄)

江戸情緒あり。(芳彦)

ひとり居の気儘なたづき昼の虫             荒川 勢津子

中七の気儘なたづきと季語の昼の虫がとても合っているように思います(律子)

高原を枕に夏の大三角                 染葉 三枝子

匠子

青林檎南半球より着きぬ                土屋 尚

史子

旅の荷の底にトランプ秋涼し              明隅 礼子

恭子

舞姫として水槽に海月飼ふ               上脇 立哉

海月の姿形 優雅な泳ぎ 魅せられます (久丹子)

”舞姫”の言葉が詩的です(憲史)

海月って飼えるんですね~!舞姫としてが良いです(早・恵美子)

星祭手を取り合ひて道祖神               須田 真弓

道祖神のむつましい姿ほほえましい(みつ子)

日記

幾十度の輪廻の途中西瓜かな              森野 美穂

西瓜に出会うのも久遠の輪廻の中の必然の出来事なのです。(敏晴)

匠子

ハーモニカ一人吹く夜や星流る             佐藤 律子

澄江

夕雲や処暑の城下に酒楼の灯              町田 博嗣

侑里

死神をしつしと払ふ生身魂               宮川 陽子

死神も早々に退散という活力 あらまほし (久丹子)

中7が飾り気のない表現で俳味があります。(相・恵美子)

オノマトペの”しっし”におかしみがあり効果的ですね(智子)

中七のしつしつと払ふがとてもユーモラスで思わず笑ってしまいました(律子)

落語の「死神」を連想し、生身魂の表情まで思い浮かぶ(ユリ子)

いつまでも元気でいて欲しいとの願いが伝わります。(純夫)

由紀子、香誉子

漢なら山岡鉄舟銀河濃し                山根 眞五

勇ましい益荒男ぶりの句かと思いきや下五がロマンチックでした(侑里)

カッコいい!!鉄舟大好きです♬(早・恵美子)

旅にさす蘇州刺繍の秋日傘               西脇 はま子

現場で見たことがあるが、繊細で素晴らしい刺繍。この刺繍の日傘をさして、秋の旅へと。いいですね。(佳久子)

蘇州の旅でしょうか。美しい刺繍を施した日傘をさして、絵のようです(ユリ子)

博嗣、志昴女

夏の夜や語り部の声七変化               井上 澄江

正治

秋の声古書肆の棚を風抜けて              内村 恭子

秋の雰囲気あり。(芳彦)

古本屋の秋の声は匂い、音、明るさなどが渾然となったものかもしれません。(純夫)

百り子

野分前いつもの場所におらぬ猫             児島 春野

野生の勘が働くのでしょうか(眞五)

気象の変化にも敏感な猫を信じます。(博美)

生き物たちの五感は素晴らしい 鳥たちも虫たちもそして野良の動物たちも・・・(美惠)

夏江

鹿寄せのホルン届きぬ浮見堂              今井 温子

鹿寄せのホルンの音はとても心地良いですね。鹿にも優しい、人にも優しい(律子)

紀美子、泰山木

神楽坂軽ろき下駄音盆の月               金子 正治

神楽坂という地名とあいまって読みながらカランコロンと聞こえてきそうです。(侑里)

「軽ろき下駄音」で浴衣姿の若い女性の軽やかな足どりがみえるよう。(光男)

短夜の明けて山河の影の濃し              宮川 陽子

後朝の歌として古来詠まれてきた短夜を大きな自然の景と取り合わせた意外性と納得性。(博行)

遠ざかる凱旋バスや夏果つる              中島 敏晴

高校球児でしょうかサッカー少年たちでしょうか 良く頑張りました。凱旋おめでとう(美惠)

勢津子

青胡桃まだ動いてるやじろべゑ             熊谷 幸子

博嗣

移住者と話す秋苑時報鳴る               町田 博嗣

正治

一列に断崖までの花野径                小栗 百り子

博嗣

赤とんぼ連れて南無阿弥陀仏かな            合田 憲史

赤とんぼは極楽からの使いなのか?(眞五)

意外な取り合わせ。祈る無心さを赤とんぼが感じ取っている?(博子)

順一

蚯蚓鳴く掛りつけ医のカルテ文字            てつお

今はパソコンに向かってカルテへ入力している医者が多いなか、この主治医は蚯蚓の這った如文字であれきっと名医です。全快(玲子)

昨今医師は患者の眼を見るより電子カルテの入力が中心!?それに引き換え、しっかりと患者と正面で向き合い診察。そして手書きのカルテ。”蚯蚓鳴く”の季語がピッタリです。(憲史)

ペダル踏む腿の重さや秋暑し              野口 日記

秋暑しの感じがよくでていると思います(夏江)

芋類はもういいと父終戦日               木村 史子

私の父も薩摩芋は絶対食べなかった!(早・恵美子)

以上

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