天為ネット句会報2024年11月

 

天為インターネット句会2024年11月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <日原 傳編集顧問選 特選句>

色かへぬ松一文字門の上                土屋 尚

「色かへぬ松」は秋の季語。周囲の木々が紅葉したり、葉を散らしたりするなか、常緑の松はその存在感を示すのである。掲句の松は太い枝を横に延ばし、門の上を覆うさまを呈しているのであろう。「一文字」という措辞に勢いがある。旧家の古木が想像される(傳)。

巴里夕照ラパンアジルの蔦紅葉             鈴木 楓

「ラパンアジル」はパリ十八区にある酒場。時代を越えて多くの画家・詩人・歌手が集った店として知られる。その内の一人ユトリロはラパンアジルの絵を何枚も描いている。歴史を経た建物にからまる蔦紅葉。そこに差す夕日。美しい世界である(傳)。

  <日原 傳編集顧問選 入選句>

野晒しの円空仏や野紺菊                染葉 三枝子

荒削りの木像と野晒しのマッチング。そして野紺菊で韻をふむ。(郁文)

円空仏に上五下五が共鳴している(眞五)

円空仏と野紺菊の取り合わせがよかった。(佳久子)

暖かな田園風景が見えて来ます。(光枝)

夏江、 楓

播州に高き城あり鵙日和                佐藤 博子

姫路城でしょうか、気持ちの良い情景ですね。(春野)

播磨の国には多くの名だたるお城がある。やはりこれは姫路城でしょうか。猛々しい鵙の鳴き声が澄み切った空を裂く。季語の選択がよいと思いました。(ゆかり)

三枝子、玲子

銅鏡の沈みゐし池月清し                髙橋 紀美子

池の底の銅鏡と空の月…どちらも丸く、光合っているような…(美穂)

太古のロマンを秘めて池に沈む銅鏡と清らかな月の取り合せが読み手の想像を掻き立てる。(博行)

羽黒山には銅鏡の出土する池があると聞きます。「銅鏡の沈みゐし池」と月の情景に美と神秘を感じます。(敏晴)

脛当ての埴輪の武人冬に入る              荒木 那智子

季語が相応しく脛当ての埴輪に趣を感じます。(相・恵美子)

伊葉、正治

褌の埴輪力士や豊の秋                 佐藤 律子

収穫を神に感謝し相撲を奉納する力士の埴輪の力強さが秋の実りの喜びと響き合っている。(博行)

春野、志昴女

由布院の霧に濡れたる馬車の鈴             牧野 桂一

由布院の馬車が霧に濡れて鈴の音がしている。絵のような感性。(芳彦)

「霧に濡れたる鈴」の表現が霧を浮き立たせる。(ユリ子)

玲子

しぐるるや軒を連ねて能登瓦              西脇 はま子

軒を連ねている能登瓦に時雨が降っている。絵のような感性。(芳彦)

能登瓦を濡らす、風情のある時雨も被災地には辛い。復興を切に願います。(博子)

孝子

寒菊や寄木細工のオルゴール              中川 雅司

寒菊の香と寄木細工のオルゴールの音のコラボに魅かれる。(はま子)

正明

数体の踊る埴輪や小六月                竹田 正明

埴輪のやんわりした雰囲気が小六月にピッタリ合っている。(博美)

小春日に踊る埴輪に癒される(眞五)

姫街道峠向かうは柿の里                榑林 匠子

恭子

べんがらの街道釣瓶落しかな              芥 ゆかり

親しい人が去り、また亡くなって行く。冬夕焼を見ながら、益々その思いが強く感じられて。(佳久子)

草もみぢ伊達と南部の藩境               荒木 那智子

伊達藩と南部藩の境界線争いで、両藩の殿様がずいぶん苦労したとか。(泰一)

背の紋をこちらに向けて尉鶲              土屋 香誉子

大学の楡の大樹や色鳥来                熊谷 佳久子


鬢付けの微かな香り酔芙蓉               中村 光男

魁星の輝き渡る北斗星                 松山 芳彦

 <互 選 句>

ひび割れの甕に甕入れ萩すすき             中村 光枝

立哉、博嗣、史子

蒼天に百態演ず秋の雲                 阿部 旭

三枝子、道代、正明

小春日や子犬寄り来るベビーカー            石川 由紀子

正治

三輪山の峰峰のしづもる神無月             佐藤 博子

中七の「峰峰のしづもる」の表現が響きが良く効いているといただきました(余慶)

那智子、 楓、雅司、陽子、夏江

神の留守風とくぐりぬ丹の鳥居             垣内 孝雄

風とくぐりぬが神様がおられない空虚な思いを表現している。(博美)

恭子、伊葉

なつかしく何か楽しい障子貼り             嶋田 夏江

昔両親の手伝いをしたことが思い出されます。何か楽しい。同感です。(光枝)

現代の家屋、特にマンションからは、床の間や障子がなくなってしまった。以前は暮の大掃除と共に障子貼りは、新年を迎えるための行事の一つであった。(はま子)

「なつかしく」の表現が生きている。句全体の空気を創り出していますね。(ユリ子)

貝塚は貝を抱いて鳥渡る                小栗 百り子

立哉

百猿図かぞへうやむや秋うらら             榑林 匠子

中7に俳味があり明るい句に詠まれています。(相・恵美子)

数え始めても途中でうやむや。ゆっくりと秋のひと日を楽しむ。(肇)

本当に百匹描き込まれているという「百猿図」。数え始めてみたけれど・・・うやむやからうららへの展開がよいと思いました。(ゆかり)

史子、玲奈、伊葉

出窓には家族の写真木の実落つ             中川 手鞠

百り子、順一

外郎売の稽古を終へて今年酒              中川 手鞠

「外郎売」セリフのお稽古なのか、早口言葉のお稽古なのか よく働いた口の乾きに新酒は・・・(美惠)

立哉

月白やふはりと歩むデビュタント            早川 恵美子

映画のなかの景のよう。ウィーンのホールを想い出します。(ユリ子)

傍らで絵本読む子や毛糸編む              合田 憲史

縄文遺跡からも編んだ物が出土されている。縄文の子は絵本がないから、編み物をしていたのだろうか。母と子の楽しい暖かなひととき。(はま子)

家族の安らぎを感じる。(孝雄)

陽子

友人は乙女座ばかり天の川               木村 史子

志昴女

五味子の実暗き葎に火を灯す              森山 ユリ子

情景がよく見えます(早・恵美子)

七竈よりぎっしりと房なりの実、まさに火を灯す感じです。(博子)

雅司

歌詠みは北面の武士露の宿               山根 眞五

西行には露の宿が似合います(美惠)

蒲団干す所帯持つらしホームレス            永井 玲子

香誉子

捨案山子にお疲れさんと声をかけ            金子 肇

素直に詠まれました。(芳彦)

虫止みて星の一つの消ゆる音              早川 恵美子

地と天のささやかな共鳴(敏晴)

虫の声が止んだ後の閑けさを、こんな風に詠むことが出来るのですね。(てつお)

虫の音が止んだ静けさの中の夜空を思います(美穂)

手鞠

冬の虹那須遠望の一里塚                鹿志村 余慶

「奥の細道」を彷彿させる。(孝雄)

ぼくと言う女の子いてハロウィーン           小高 久丹子

ぼくっ娘が仮装してハロィーンを楽しんでいる、そんな都会の光景を想像させられました。(侑里)

孝子、香誉子

秋の水コロコロと鳴る出雲かな             野口 日記

匠子

老い入らば若きに学ぶ草の花              中村 光枝

孝子

地に在ればなべて傷あり櫟の実             中島 敏晴

玲子

デッサンのためのスツールラ・フランス         木村 史子

スツールに惹かれました。「自分だけのアトリエ」そんな感じでしょうか(美穂)

竜胆や青の時代のピカソの絵              熊谷 佳久子

竜胆とピカソの絵の取り合わせがとてもいい。(桂一)

正治

おけさとは猫の名前やおけさ柿             西脇 はま子

この句を通して新潟県のことや「おけさ」と名前が付く歌のことを知りました。(侑里)

木の実降るアンモナイトの化石へと           明隅 礼子

次代へと命をつなぐ木の実と次代へ命をつなぎ終えたアンモナイトの化石の取り合せが絶妙。(博行)

匠子

すつぴんもええなといえず小夜時雨           門司 侑里

ええなといえず残念でした。色々想像が膨らみます。(肇)

そぞろ寒太き梁ある蔵座敷               合田 智子

立派なお屋敷の佇まい。(孝雄)

蔵屋敷の太き梁で季語を象徴。(郁文)

手鞠

仙人と称し地茸料理人                 山本 純夫

香誉子

栗を剥く夫の応へのぶつきらぼう            山本 純夫

ぶっきらぼうでも幸せなお二人が見えて来ます。(光枝)

栗の美味しさと剥く手間は反比例 ついこのような声音にも(久丹子)

栗の皮を剥くのも一手間!集中している時の受け応えはぶっきらぼうにもなりますね(律子)

紀美子

後の月愛で名乗らずに別れけり             内村 恭子

改札口誰も無口に冬隣                 鳩 泰一(泰山木改め)

目的地への通過地点 季節もまた 一瞬の表情が見えるようです(久丹子) 

由紀子、那智子

雨しとど飯桐の実の燃ゆるかに             荒川 勢津子

雨降る中の飯桐の実はほんとうに燃えているように美しいです(律子)

朋子

冬夕焼ひとり去り又ひとり逝く             齋藤 みつ子

「ひとり去り又ひとり逝く」というところに作者の胸の内にある寂しさが表れているように思います。(侑里)

道代

行く秋の風さぬき国分寺跡               原 道代

博嗣

鉄棒の愚直を囃す猫じやらし              てつお

鉄棒は猫じゃらしをなんといって囃すだろうか。聞いてみたい。(肇)

順一、匠子

父の名の帆布のリュック草紅葉             金子 正治

親子二代山歩きが大好き?(泰一)

手軽に山歩きを楽しんだ父を懐かしがっている気持ちが伝わってくる。(博美)

紀美子、玲奈、勢津子

冷まじや殺戮を是と言い切る顔             児島 春野

勢津子

蓋を取り香りに遊ぶ土瓶蒸し              阿部 旭

「香りに遊ぶ」ということで美味しそうな土瓶蒸しの湯気が見えてくる。(桂一)

由紀子

始まるや太鼓の稽古秋祭                原 道代

稲刈が終わり、収穫のありがたさを神に伝える秋祭。太鼓の打ち手は青年の役だ。(茂喜)

団栗を一つ拾うて一人なり              上脇 立哉

シンプルな表現の中に、いろんな心情を汲むことが出来ます。(てつお)

気づけば一人静寂の中にいた(眞五)

朋子、尚

人競ひバベルの塔へ天高し              森山 ユリ子

同行を辞してひとりの紅葉狩             土屋 香誉子

色付きの紅葉の中、 吟行を兼ね詩心を楽しむには絶対一人が良い。 (郁文)

同行を辞す、「ひとり」のひらがなに作者の思いが感じられいただきました(余慶)

初しぐれ返せぬままのビニル傘            垣内 孝雄

返せぬままの言葉にいろいろ想像します。もう会えない人に借りた傘でしょうか?思いが残ります(律子)

月代やゲルへと戻る馬の影              中村 光男

月の出を待つ雄大なモンゴル平原。(泰一)

陽子、手鞠、春野

冬ぬくし埴輪のほうと息を吐く            佐藤 律子

ほんとに息をしているような丸い口 なんともいえない温かみが伝わります(久丹子)

朋子、夏江、正明

残り蚊よかゆいわ小さいわくやしいわ         岡崎 志昴女

ユーモアある方ですね~♪楽しませて頂きました(早・恵美子)

種茄子の艶黒々と風のなか              岡部 博行

紀美子、勢津子

楸邨の島の御所跡紅葉狩               松山 芳彦

「隠岐やいま木の芽をかこむ怒濤かな」楸邨の句を思い出しながら鑑賞した。(佳久子)

加藤楸邨は、後鳥羽院の歌に衝動を受けて隠岐の島に渡り暮らした。心は悲しみの紅だ。(茂喜)

火柱と火の粉の散華筒花火              髙橋 紀美子

由紀子

秋惜しむ枯山水に架かる橋              野口 日記

順一

銀杏を踏み詩心を生み出せり             相沢 恵美子

街路樹の黄色の葉と実が落ちて、秋の一日が深む。さあ新たな俳句を作ろうか。(茂喜)

百り子、史子

交響詩静かに終はり冬近し              中島 敏晴

三枝子

灯火親し書架の隅から抜く荘子            岡部 博行

秋の夜、荘子を手に取る心地に共感です。胡蝶の夢、大鵬、死生観などの世界に浸る夜。(博子)

積み藁に家の流儀や山の村              児島 春野

積み藁の積み方は、遠目には同じに見えますが、見えないところにその家その家の工夫が(美惠)

家の流儀という何気ない作法に発見がありいただきました(余慶)

博嗣、志昴女、道代、恭子

ラグビーの奇なる軌跡の楕円球            鹿志村 余慶

玲奈、尚

演説を斜めに抜ける色なき風             小高 久丹子

「斜めに抜ける」ということで演説の内容が少し傾いていることを示唆している。(桂一)

秋高し馬の大腿バーを越ゆ              熊谷 幸子

障害馬術競技を見ると、確かに馬の太腿がバーを越える瞬間が最も重要な場面であるようです。(敏晴)

鍛えられた馬がその脚で、次々と見事に障害を越えてゆく姿が目に浮かびます。(てつお)

中7が効いていて句に勢いがあります。(相・恵美子)

叡山の風来る頃や茎漬けも              日根 美惠

そろそろ比叡颪の来る頃だなと寒さに身構えるけれど、酸茎もやってくるというお楽しみもある。師走頃の京の季節感をじわじわ感じます。(ゆかり)

情景が決まってます。美味しい茎漬け召し上がれ!(早・恵美子)

那智子

散り敷いてわが白髪にも金木犀            阿部 朋子

百り子

星流る死海の泥の石鹸へ               明隅 礼子

雅司

以上

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