天為ネット句会報2025年3月

 

天為インターネット句会2025年3月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <日原 傳編集顧問選 特選句>

松明の照らす神事や若布刈る              嶋田 夏江

北九州市の門司にある若布刈めかり神社で行なわれる若布刈神事を詠んだ句であろうか。旧暦の大晦日から元日の払暁にかけての干潮時に三人の神官が、松明、桶、鎌を持って海に入り、若布を刈り取って神前に供える神事。航海の安全やその年の豊漁を祈願するのだという。「松明の照らす」という描写から神事の神々しさが伝わってくる。なお、島根県の日御碕神社などでも同様の若布刈神事が行なわれているようだ(傳)。

シーラカンスヌーボー然と春隣             小高 久丹子

「ヌーボー然」は、人の態度などのつかみどころのないさまを言う。『広辞苑』では、「ぬうっと」「ぼうっと」に掛けた表現だと説明する。この句はその措辞を用いて表情を変えることなく悠然と泳ぐ古代魚の姿を活写した。「春隣」という季語もうまく納まっている(傳)。

  <日原 傳編集顧問選 入選句>

シナモンの棒の軽さや今朝の春             森野 美穂

春、シナモンの棒は軽く指に舞う(敏晴)

やや甘めの素材が春の気分にぴったりです。(恭子)

シナモンの香りと細棒の軽やかさの中に春を迎えた小さなよろこびが映される。(伊葉)

シナモンの香りや風の匂い、囀まで聞こえてきそう。(博子)

日記

卒業の子に晴れ晴れと喉仏               金山 哲雄

卒業子と喉仏の取り合わせがとても新鮮で驚きました。「晴れ晴れと」が胸を張って空を見上げているようで心地良いです。たまむし

これからは息子を男性として見ることになる。「晴れ晴れと」がいい。肇

子の成長を実感しますね。侑里

立哉

理科室にホルン響かせ卒業す              髙橋 紀美子

上五と「ホルン響かせ」との意外性が妙味(憲史)

志昴女、香誉子

恋猫の集ふベネチア裏通り               熊谷 幸子

こんな通りにいってみたいです。侑里

礼子、百り子

菊坂の路地から路地へ蝶の昼              佐藤 博子

「蝶の昼」の探索も宜しかろう。(孝雄)

菊坂の路地を行けば一葉を思い、儚げに彷徨う浅春の蝶が重なる。ふみ

菊坂はいつものどかな雰囲気がありますね。(ユリ子)

春昼やサンドウィッチを三角に             明隅 礼子

サンドウィッチに春を感じます(夏江)

春の灯や天狗のごとき伎楽面              中川 雅司

やわらかい春灯に天狗のような伎楽面が浮かびあがり、不思議な世界。(佳久子)

探梅や柳生一刀石を見て                今井 温子

巨大な柳生一刀石を詠み込み句に迫力があります。相・恵美子

越南の甘き珈琲春闌くる                鈴木 楓

雅司

目薬師へ畦道伝ひ犬ふぐり               荒木 那智子

立哉

荒神に柴打ち付ける里神楽               牧野 桂一

那智子

上げ潮の川面に浮かぶ残り鴨              嶋田 夏江

真弓

大砲を打つて雪崩を起しけり              土屋 尚

嵯峨源氏ゆかりの寺の涅槃変              西脇 はま子

 <互 選 句>

白梅や辞世を記す生誕日                高島 郁文

志昴女

きさらぎの雨砂時計ほどの音              たまむし

「砂時計ほどの音」に脱帽(敏晴)

「砂時計ほどの音」の措辞に惹かれました。(哲雄)

きさらぎと砂時計よく響きます。(伊葉)

かすかな雨音を砂時計に喩えたのは繊細な感覚。(恭子)

細かな雨の音が聴こえるようです(美穂)

付かず離れずの取合わせに、雨の色と音を感じます。(博子)

日記、尚

独り夜の更けて菜飯の芳しき              鹿志村 余慶

一人の夜の小さな贅沢(眞五)

吉原にポッピンを吹く日長かな             長岡 ふみ

遊女のけだるさ セピア色のポスター季語が良いと思います (幸子)

苦界とは言え、たまにはこんな遊びもしたかと。(春野)

正明

手水舎の水吐く龍や春動く               相沢 恵美子

百り子

白梅を映すスプーン喫茶室               金子正治

小さなスプーンに広角状に映った白梅の三次元の世界。しばしうっとりの景が伺えます。   (郁文)

梅が香やさしたる謂れ聞かぬ寺             金山 哲雄

ひっそりと佇む村のお寺に馥郁と香っている梅の木 お寺も梅の木も村人が大切にしてきたのでしょう 素敵な日本の原風景(美惠)

中七下五の表現との対比で「梅が香や」で一層香りが際立っている(憲史)

著名な古寺ではないが、梅の香はやさしく匂う。(泰一)

那智子、匠子

デボン紀より永き永き日ザトウムシ           小高 久丹子

座頭虫出づ虫好きに伝へたし(匠子)

おぼろ夜や厄除け寺に集ふ猫              中島 敏晴

交通事故に合わぬよう野良猫が、、、季語がいいですね。 (郁文)

春となれば恋猫、しからば厄除け寺に集うとは怪猫かも、興味津々いただきました。余慶

人知れず朧の夜に集まるのが厄除け寺というのが面白い。猫の世界の災難も除いてくれるのだろうか(律子)

手鞠

かぎろひの丘や葛根を干す日永             今井 温子

那智子、早・恵美子

牛飼ひの拓士の里やいぬふぐり             垣内 孝雄

満州に新しい未来を求めた時代。淡いピンクのその花は、牛に人に踏まれ、おおらかに咲いた。正規

芳彦

春愁や核も資源も持たぬ国               中川 手鞠

周辺国を見廻すと憂鬱になる時があります(眞五)

「核も資源も」に厳しく悩ましい現実がある。(泰一)

異邦人蠢く春や浅草寺                 佐藤 律子

夏江、史子

沈丁の花の香に寄る黒き犬               妹尾 茂喜

色のコントラストが美しい。沈丁の花ではなく沈丁の花の香であるのはさらに素晴らしい。天満

遠州にほどなく消えし春の雪              榑林 匠子

遠州に・・で景を大きくした。(伊葉)

白波に波音なみとと星の蛍烏賊                松山 芳彦

春浅き夜、波の音そして星に例えた蛍烏賊の美しい光が浮かびます。(孝子)

手間いらずと教はり芋を植うるかな           土屋 香誉子

朋子

会食の場まで山坂杉の花                町田 博嗣

順一

薄氷や海月のやうに透ける月              岡部 博行

「海月のやうに」という措辞に惹かれました。(光男)

孝子

白酒に恋の手ほどき聞きゐたり             合田 憲史

白酒を嗜みつつお母様から昔の恋のことなど聞いているというところでしょう。白酒のほど良いあまさがいいですね。(光男)

デコ芝居の山場に涙梅ひらく              原 道代

下五「梅ひらく」が季語として素晴らしい(憲史)

日の丸は眠らせてある建国日              荒川 勢津子

政治的な無関心が広がっている現実。これていいのかと問いかけられる。(桂一)

建国記念日に限らず祭日の日の丸をめっきり見かけなくなりました。眠らせてある旗が、起き出す日が来るでしょうか。ふみ

由紀子、香誉子

赤鬼も青鬼もいて福は内                宮川 陽子

玲奈

役者絵の鬢のほつれも春一番              永井 玲子

絵の鬢のほつれが春一番のせい、とは心にくい表現。(恭子)

立哉

春寒し戦で稼ぐ奴がいて                岡崎 志昴女

戦後に国際連合が生まれ、今後は戦争のない時代と教わってきたが、残念でしょうがない。(正治)

北国の春は確かに寒いですね。天満

紅梅のさらに紅きを求め行く              土屋 尚

やっと見つけた紅梅。だが、満足せずより紅いものを求める人間の本性を冷静に見つめる作者の眼。(博行)

紅梅の赤は様々なので、梅園で私もよくそうします。(春野)

涅槃図の釈迦生き生きと横たはり            内村 恭子

「生き生きと」に惹かれました。(博美)

志昴女、由紀子、侑里、尚

蛇出づる右は羅馬へ至る道               早川 恵美子

ローマへの道には色々あってこれからもまた色々ある。(桂一)

ようやく春、海外旅行なども思い巡らす時季、すべての道はローマへ通ず・・・表記も含めて俳諧味のある魅力的な御句だと思いました。たまむし

蛇はローマへの右の道を行ったのでしょう。(博美)

冬眠から覚めて穴から出たらそこはローマヘ通ずる道だった。壮大なドラマが始まるかも。(ゆかり)

史子

真ん中に桜大樹の芽吹きかな              佐藤 博子

上五が生きています。 (幸子)

勢津子

魚は氷に職場研修はじまりぬ              熊谷 佳久子

立春になり新入社員の心構え(勢津子)

博嗣

獺祭や繊維問屋は箱積んで               芥 ゆかり

獺が魚を並べている様子を思い浮かべての俳句。面白かった。(佳久子)

季語の斡旋が上手です(早・恵美子)

風光る子等の側転弧を描き               長岡 ふみ

体育の授業でしょうか?子等の手足の伸び伸びした様子が眩しいです(智子)

真弓

残雪を訪ねし観音坂の庵                阿部 朋子

残雪を訪ねる思いを想像し、観音坂の庵の措辞ともども句に深みを感じました。たまむし

たんぽぽの絮終末時計の秒動く             中村 光男

命の果へ刻々と近づく秒が効いています。(博美)

早春や時には妻の膝枕                 児島 春野

道代

蒼天に木の芽置きたる大樹かな             小栗 百り子

雅司、正明

受験子の「いつてきます」の口にチョコ         宮川 陽子

我が国の受験は何故か悪天候の時期に行う。受験に出掛ける子息の口に安堵の甘さを放る。(茂喜)

受験に出かける子口に一片のチョコを放り込んだのでしょうか。母と子の親密な関係の一齣。はま子

順一

穴を出づくちなはの目の琥珀色             斎川 玲奈

蛇の目が琥珀色と詠まれると、なんだか素敵な蛇のように思われました。(佳久子)

紀美子

屋根屋根の雪の厚さに春立てり             阿部 朋子

礼子

鳶の笛海辺に揺るる黄水仙               金子 肇

海辺を空高く旋回しながら笛のように鳴く鳶、真下には黄水仙が群れて咲き春の訪れが際立つ(律子)

一枚の絵を見ている様です(智子)

懐メロのサビ繰り返し初桜               野口 日記

陽気に浮かれて口ずさむのは懐メロ、それもサビのところだけ。分かります。肇

佐保姫に誘われ飛鳥古寺巡礼              冨士原 博美

季語が効いています。雅な古寺巡礼ですね。相・恵美子

芳彦

一粒を十と数へて年の豆                榑林 匠子

史子、陽子、手鞠、香誉子

佐保姫を阿吽で迎ふ東大寺               日根 美惠

狛犬をこんな風に詠まれるとは (幸子)

佐保姫様の造化を阿吽の呼吸で迎える東大寺さん、作者の東大寺への思いが伝わってくるようでいただきました。余慶

阿吽で迎ふ…が面白いと思いました(美穂)

菜の花の化したる蝶や巡礼路              森山 ユリ子

芳彦、真弓

薄氷を踏めば光の折れる音               たまむし

朝日が射しこむ一景を光が折れると表現し上手に捉えた句です。(郁文)

氷を割る時の音を聞くたび、窓ガラスを割ってしまった罪悪感を感じる。(正治)

春の陽に眩しい薄氷は光そのもの(勢津子)

光の折れる音という表現の繊細さに心惹かれた。(ゆかり)

踏めばシャリっと音のする薄氷 「光の折れる音」が素敵(美惠)

物理かなー。氷も情も脆いですよね。そして恋も、一瞬の光のように…天満

薄氷を踏んだ時の靴の感触が折れる音と通じ合う、巧みな表現ですね。ふみ

「光の折れる音」という把握がすばらしい。(哲雄)

つい踏んでしまう薄氷。光りつつ割れる薄氷を「光の折れる音」と捉えた作者の鋭敏な感性が光る。(博行)

「光の折れる音」に清澄な空気感があります。(泰一)

薄い氷が割れる音を光が折れる音と聴く、まいりました!(律子)

ひかりが折れる音とは!素敵な把握です(早・恵美子)

薄氷の折れる音を光の折れる音と捉えた繊細な感覚。はま子

尚、孝子、手鞠、百り子、匠子

肥後六花さらに紅白梅きそふ              山根 眞五

肥後細川庭園の景であろうか。梅は肥後六花に入ってはいないがこの季節には紅白梅も咲き競っている。「さらに」が守り継がれた肥後の園芸の伝統を強く感じさせる。(ゆかり)

紙を漉く楮の枝を骨にして               斎川 玲奈

寒明けや山雨に鐙濡るる馬場              町田 博嗣

日持ちせぬ菓子の手みやげ春浅し            木村 史子

「日持ちせぬ菓子」でお互いの関係の親しさが伝わります。(敏晴)

夫よりも遥かに生きて蓬餅               片山 孝子

ふっと気が付けば連れ合いよりも随分と長生きしてしまったと思いいたった。ちょっとした寂しさを感じる句。(光男)

山里の大きな屋根の家。御婦人方は皆で蓬餅を。「あんたの旦那はもう何年だへか」。正規

何とも言えない蓬餅の味ですね。(哲雄)

玲奈

留守番のひとりあやとり春炬燵             中村 光男

季語がよく合う。炬燵をしまわなくてよかった。肇

道代、日記

ミコノスの白き風吹く春の海              中川 雅司

ギリシアのエーゲ海とミコノス島の白さが清々しく、一世を風靡したオング節が懐かしく、今もありですね。余慶

雪解光関八州を一望に                 西脇 はま子

雅司

母さんに叱られさうな春の泥              上脇 立哉

中七から下五につづく「修辞」の佳さ。(孝雄)

少し暖かくなってきて泥んこ遊び面白い 思いっきり遊んだ後の自分の洋服母さんに叱られるかも(美惠)

まだ咲かぬ河津桜とベンチかな             石川 順一

折角見に行ったのに。今年の春は遠いから。ドンマイです。正規

春を待つ心が伝わります。(ユリ子)

地虫出づ都内最古の石の橋               相沢 恵美子

正明、春野、順一

春耕や縄文土器のものの種               阿部 旭

縄文時代には栽培が行われていたという。耕す行為は遠い昔の人類の記憶、集合的無意識につながる。(博行)

由紀子、夏江

ビル風のメジャー・セヴンス春兆す           岡部 博行

メジャーセヴンスの輻輳感で、ビル風に感じる春の訪れ。マイナーでもセヴンスだけでも、こうはいかない。(博子)

朋子

明治座に推しの幟や桜東風               芥 ゆかり

明治座ファンには情景が目に浮かぶ(眞五)

腰低き富士と山々笑ひ合ふ               小栗 百り子

紀美子

母囲み三男六女桜餅                  合田 智子

母上の祝いの日、遠く離れた息子も娘も故郷の家に集まる。父上の仏壇にも一つ。最高の祝日。(茂喜)

道代

永き日や土で捏ね出す猫の形              中島 敏晴

博嗣

肩の荷をやうやく下ろし春コート            鳩 泰一

春の訪れを楽しむ心が良く表現されている。(正治)

春光のやけに眩しき日の追試              内村 恭子

中7が効いていて実感が籠っている句です。相・恵美子

こんないいお天気の日に、何故追試を受ける羽目に…というボヤキが聞こえてきそうです(美穂)

陽子

朧夜に迷へる百鬼夜行かな               熊谷 佳久子

礼子

猫はふり涙せし目に鳥帰る               日根 美惠

紀美子

双曲線に曲がる伊豆急桜まじ              髙橋 紀美子

博嗣

明日香路の朝の茶粥やあゆの風             早川 恵美子

「明日香路」「茶粥」「あゆの風」が醸し出す世界。(孝雄)

美しい俳句。「朝の茶粥」が見えてきます。(ユリ子)

枝垂梅あめ降りさふな空為れば             伊藤 正規

朋子

春の雪白鷺城に恋をして                冨士原 博美

白鷺城は孫を連れて何回か行った。孫はひとりで上まで昇る。その子はことし成人だ。(茂喜)

島国の自転の外へ帰る鳥                竹田 正明

自転の外ということで地球規模の渡りのスケールが見えてくる。(桂一)

陽子

豆撒かれ撒かれて嬉しがる小鬼             上脇 立哉

節分を家族で楽しんでいるようですね(智子)

小鬼は小さなお子さんでしょうか。親御さんとお子さんとの至福のひと時。はま子

玲奈

以上

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