天為ネット句会報2025年5月

 

天為インターネット句会2025年5月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <日原 傳編集顧問選 特選句>

もう走ることなき麒麟風薫る              髙橋 紀美子

動物園で飼育されている麒麟を目にしての作であろう。麒麟舎の隣に運動用の庭は設けられてはいるものの、走り回るほどの広さはない。餌を食べたり、歩いたりする姿を見ながら、アフリカの広い大地を走り回っていた過去を思い遣るのである。「風薫る」という季語は、麒麟にとっての好ましい季節の到来を示しており、それだけが慰めになっている(傳)。

風薫爽やかな5月 生きとし生けるものたちの躍動の季節。自ら望んで来たのではない動物園の生き物たち。キリンも駈けさせてやりたいです。(美惠)

走ることなきは悲しい(夏江)

動物園の麒麟。風薫る大草原を夢みて・・・哀れみが。(佳久子)

匠子

さんさんと遠の朝廷みかどの樟若葉              佐藤 博子

「遠の朝廷」は大宰府のこと。太宰府天満宮の境内には樹齢千五百年を越える樟大樹があり、天神の杜全体では約百本の樟の木が数えられるという。新緑の頃はさぞかし見事なことであろう。「さんさん」は漢字を当てるとすれば、「粲粲(あざやかで美しいさま)」あるいは「燦燦(あざやかに光り輝くさま)」か。歴史ある大宰府の樟若葉の素晴らしさを正面から讃えた作である(傳)。

樟若葉が効いてます(早・恵美子)

雅司

  <日原 傳編集顧問選 入選句>

聖五月ベビードレスのふた揃ひ             佐藤 律子

双子の女の赤ちゃん、微笑ましいです。季語も生きています。(孝雄)

双子のお子さん?お孫さん?女の子でしょうか?家族の喜ぶ顔を想像するだけでこちらも優しい気持ちになれます。(向田敏)

双子ちゃんの誕生を待っているのでしょうか。ベビードレスと季語が響き合っていますね。ふみ

生まれてくる双子を祝する気持ちと聖五月の雰囲気がぴったりです。敏晴

道代、那智子、玲子

花は葉に蛤御門の弾の痕                石川 由紀子

中八ですが、重厚で端正な句。季語がぴったりだと思いました。たまむし

葉桜となった蛤御門の弾の傷痕が維新回天へ誘う一局を詠んでいる情趣ある句といただきました。余慶

「は」の三つ続きがリズミカルです。(春野)

朋子

園丁の褪せし半纏牡丹苑                児島 春野

褪せた半纏との対比で、手入れの行き届いたみごとな牡丹が見えてきます。(ユリ子)

中七で年季の入った園丁の姿が浮びます。確かに牡丹園で見る景色です。(光男)

勢津子

聖五月カフカの街の塔の尖               鈴木 楓

不条理のリアルを表現し 若くして亡くなったカフカ 生涯の街プラハの景と季節にふさわしい作家でした(久丹子)

プラハは塔の多い町、五月の空に向かって塔が伸びている姿がいい。(佳久子)

雅司

瀬を渡る石の一列かじか笛               榑林 匠子

清らかな小川に蛙が鳴いている、「石の一列」が効果的です。(博美)

清流の音 気持の良い初夏の景   (幸子)

飛花落花上野の山に地獄の門              阿部 旭

今年の桜を惜しみながらふと目にしたロダンの門、現実に引き戻されてドキッとしました。ふみ

散り際の美しいとされる桜、官軍と彰義隊の抗戦の悲惨さを詠みとった句に詩情を感じました。余慶

春ショールヘップバーンの真似をして          門司 侑里

由紀子、順一

麦鶉小さき水音絶え間なく               日根 美惠

麦畑で絶賛子育て中の鶉。中七下五への転調が心地よく句のバランスがよいと思いました。(ゆかり)

はせといせ分かるる道や諸葛菜             芥 ゆかり

玲子

畑の垣刈込みてより耕せり               土屋 香誉子

人も土も生き生きと映えてきます。伊葉

花曇カフェのテラスで読む手紙             中川 手鞠

下闇にガマあり黒き口を開け              中村 光男

フィレンツェの橋の花売り花ミモザ           中島 敏晴

武士の駆けし往還風光る                岡部 博行

風光る大門坂の石畳                  河野 伊葉

 <互 選 句>

棹歌や艫にほつれる花筏                郁文

「景」が思い浮かびます。味わい深い句。(孝雄)

舟下りでしょうか。春の情緒たっぷりです。(泰一)

花筏の中を割ってゆるりと進む棹歌が聞こえてきます。(博美)

長閑でゆったりとした春の光景。棹歌がいいです(肇)

風情が有って素敵です(早・恵美子)

芳彦、楓、那智子、手鞠

夏空に六本の雲インパルス               原 道代

仏の革命記念日にシャンゼリゼ通の上空を低空飛行する戦闘機が目に浮かぶ(眞五)

道の駅けふから燕加はれる               上脇 立哉

「加はれる」ということで、燕が心強い味方のひとつであることがよく分かる。(哲雄)

燕も道の駅のメンバーなのですね(美穂)

山里の道の駅。丁度良寛さんの地の長岡の道の駅を利用した。ぴったりだった。正規

昼下がり静心なく白き蝶                児島 春野

正明

持ち寄りの皿の彩り夏隣                野口 日記

屋外でのポットラックパーティー。テーブルに並ぶ彩とりどりの料理に日光が注ぐ。夏がすぐそこまで来ている。(博行)

楽し気なる会話の声が聞こえてきます。ご婦人?たちの服装も初夏にふさわしい格好なのでしょう。(郁文)

中7が効いています。料理の綺麗な彩りは楽しくなり、食欲も増進しますね。(相・恵美子)

博嗣、尚

何が好き粒漉味噌のかしわもち             合田 智子

味噌の香りが立ち上がってきそう。この断定に、しばしの幸福感を共感しました。(博子)

陽子

傘差さず巴里の道行くかたつむり            早川 恵美子

作者の躍動感が季語により伝わってきます。印象派俳句というんでしょうか。余慶

磐座の幣に重たき小糠雨                染葉 三枝子

師の句碑に藤垂れてをり行興寺             山根 眞五

磐田市の寺にある朗人師の句碑は、いま、色濃く垂れた長寿の藤のなぐさめを得ている。(茂喜)

勢津子

車椅子押し出す赤き薔薇の門              佐藤 博子

香しい薔薇の香りのする句。、赤い薔薇の門を潜るとき、棘にさされないように用心深く車椅子を押し出す様子が伝わってくる。(はま子)

会いに行けるアイドルが推し桜餅            木村 史子

立哉

楝咲く頃か万障繰り合わせ               荒川 勢津子

恭子

電柱に旧き町の名燕来る                金山 哲雄

少しづつ変わっていく街にも、変わらずに燕が帰ってくる。変わらないことを願う気持ちと、諦めもあるように思われます。(向田敏)

由緒ある町名は残したい。(泰一)

旧き町の名とあるので歴史を感じさせる町ですね。燕も常連のよう、懐かしい風景です。(光男)

たまに見ることがあります、燕もその旧名をみて?(夏江)

燕さえも昔ながらの場所を大切に守り続けている(憲史)

古くからあり様子もほぼ変わっていない町には、安心して今年も同じ所に燕が巣を作るのでしょう。(春野)

陽子、那智子、手鞠、日記、香誉子、純夫

春の月腰ややひねる観世音               冨士原 博美

脇侍に配した月光菩薩立像古都に見に行きたくなります。伊葉

観世音が春の月に見とれているよう。(佳久子)

キャリーケース怒涛となりて春の駅           鳩 泰一

「怒涛となりて」が実感です。(哲雄)

怒涛のように流れてくるキャリーケースの情景が浮かびます(美穂)

史子

さくらさくら学食の椅子ひとつ空く           たまむし

さくらの季節は別れの時でもある、さくらさくらのリフレインで時の流れをそのまま受け入れる軽やかな心情を感じさせる。敏晴

上五の平仮名でのリフレイン。新入生のフレッシュさが際立っています(憲史)

史子、楓、孝子

仏桑花新たなる世に首里の赤              中村 光男

立哉

緋牡丹の千重万重の刻しづか              熊谷 幸子

朋子、雅司

猫までがタヌキ寝入りの春炬燵             門司 侑里

芳彦、純夫、匠子、順一

早朝のワンルームより新社員              土屋 香誉子

立哉、侑里

沈思黙考ハシビラコウの春の昼             髙橋 紀美子

道代

刻々と半過去になる夕桜                向田 敏

正治

五月晴余白楽しむことばかり              齋藤 みつ子

余白とは人生の余白なのでしょうか。「楽しむことばかり」と率直に言いたいものです。敏晴

初咲の牡丹に月のひとしずく              松山 芳彦

夜の牡丹の景、綺麗でしょうね。見てみたいです。たまむし

初花の牡丹に月光ひとしずく。取り合わせがみずみずしく美しい。(ユリ子)

新庄宿の百二十本飛花落花               原 道代

春野

ビロードの襟の匂ひや花袋の忌             永井 玲子

昭和の木綿わたのお布団 顔が当たるところに黒いビロードが縫い付けられていました。懐かしい香りが匂って来ます。(美惠)

天鵞絨の襟が花袋の忌と響き合ってます(早・恵美子)

度の合はぬ眼鏡をかけて春うらら            相沢 恵美子

史子

キャラバンの駱駝眠たし春の昼             鳩 泰一

恭子

屯して仔猫匿ふ秘密基地                牧野 桂一

由紀子、尚、香誉子

ヘリオトロープ華やかな過去語り出す          長岡 ふみ

原産地はペルーとのこと。渡来するまでのことなど語ることは多々ある(眞五)

七五七の破調。強い香りに語らずにはいられなかったのでしょう。正規

中学生の頃、ヘリオトロープという言葉を、漱石の「三四郎」を読んで知りました。ストレイトシープも知りました。改めて「三四郎」を読んでみたくなりました。(はま子)

夫の手に触れて躑躅の遊歩道              野口 日記

ほのぼのとした安らぎを感じます。(孝雄)

躑躅の垣根は丁度良い高さなんですよね。旦那さん羨ましい。素敵です。正規

ご年配の句? 手を握る出なく、なんとなく恥ずかしさが伺えますね。良き思い出の散歩でしたね。 (郁文)

孝子

雨止んでみどり眩しき木の芽摘む            阿部 朋子

小さな棘さえもみずみずしくみどり眩しきが良かったです  (幸子)

花冷えや灯りの消えぬ手術室              郁文

夜になっても続いている手術。花冷えという季語で緊張感が伝わってきます。(光男)

気がかりな手術室の様子が「明かりの消えぬ」でよく伝わってくる。(桂一)

春雷に目覚む宿坊高野山                熊谷 佳久子

高野山の春雷は特別でしょう。(ユリ子)

豆飯のぼちぼち暮らす八十路叔母            合田 憲史

志昴女、道代

反抗は一途に母へ青土筆                牧野 桂一

赤子からの反抗は可愛くもあり、辛くもあり,季語が良い(紀美子)

反抗期は誰でも通る道です。親子でつらい経験ですね(智子)

手鞠

老人のひとり鞦韆ラストシーン             宮川 陽子

小津安二郎の映画でしょうか。名ラストシーンが目に浮かびます。ふみ

人びとが僅かな春を上野山               伊藤 正規

博嗣

馬曳きの埴輪の笑や春の虹               染葉 三枝子

唐古・鍵山遺跡の「馬曳きの埴輪」。春の虹のようにはかない笑みを浮かべた兵士の可愛らしいこと(美惠)

埴輪の笑みが虹を引き起こしたのかも。伊葉 中7にしみじみとした趣を感じます。(相・恵美子)

芳彦、正明、日記

流れ来て鴨川になる春の水               上脇 立哉

立身出世を川に託したような句ですね。。さらに琵琶湖,大海へと大きくなっていくのでは。 (郁文)

鴨川は周辺で生起する数多の歴史的な出来事を見てきた(眞五)

鴨川の水になるまでには、遠い道のりがあるのですね。(哲雄)

蚯蚓たつぷり釣りの子の籠の中             妹尾 茂喜

たっぷりの餌をもって魚釣り。懐かしい昭和の時代です(智子)

風船を放つ風へと光へと                岡部 博行

一読、景が目の前に広がります。歓声までも聞こえてきそうな・・・たまむし

志昴女、尚、香誉子

花筏LINEに残る古き友               中島 敏晴

たゆとう残影 季語が効いています(久丹子)

夏江、正治

母をらぬ日々食卓にヒヤシンス             内村 恭子

母の好きだった花が面影と重なりいつも食卓を飾り続けている(憲史)

侑里

蒼天や白を尽くしてハナミズキ             荒川 勢津子

真っ青な空の色と真っ白なハナミズキが響き合ってこの上なく美しくかがやいている。(桂一)

蒼天に映える白い花水木が鮮やかです。(泰一)

春の陽の広がる青空とハナミズキの白とのコントラストが美しい(智子)

花楓濡れつつ紅を零しけり               相沢 恵美子

雨のなかでの花楓の美しさが目に浮かびます(紀美子)

百り子

進級の子に多色刷国語辞典               榑林 匠子

小学校高学年になったご褒美か。何でもググる時代ですが、多色刷りの辞典は楽しく積極的に使ってくれそうですね。(ゆかり)

玲子

緋の色の桜うぐいや余呉水路              日根 美惠

青く澄んだ余呉湖に桜うぐいの緋の色が美しい。(博美)

余呉湾で採れる桜うぐいなのでしょうか?産卵期で腹部が緋の色の桜うぐい、一度この目で見たくなりました(律子)

立ち漕ぎの自転車疾し夏来たる             佐藤 律子

立ち漕ぎで少し汗ばんだ肌に風が心地よい自転車の爽快感と「夏来たる」の季語のマリアージュが軽快で絶妙。(博行)

立ち漕ぎの自転車。「夏来る」にピッタリの青春真っ只中の雄姿。(はま子)

孝子

古文書に句読点なき飛花落花              たまむし

勢津子、百り子

犬ふぐりにも青雲のこころざし             西脇 はま子

地に咲く雑草、晴天にしか咲かない。青雲と青い花の心意気がいいと思います。(百り子)

志昴女、侑里

踏青やガラス天井いまもなほ              土屋 尚

踏青→青き踏む→青鞜→女性解放運動→未だある社会的進出への壁という流れが見事です(肇)。

野遊びを楽しみつつ 見上げる空の高さによぎる想いも(久丹子)

屋久杉の柾目涼しきタンブラー             小栗 百り子

日記

二人してお茶と贔屓の柏餅               垣内 孝雄

端午のころお茶の時間、二人がいつも合意するのは柏餅を頬張ること、安らかな生きがいだ。(茂喜)

黒土に新芽尖らせ春の朝                片山 孝子

正治

春なれや飛行機雲のほどけゆく             斎川 玲奈

匠子

防人の沼湖に影の水鶏笛                鹿志村 余慶

水鶏笛の季語を上手く取り入れ落ち着いた一句に詠み込んでいます。(相・恵美子)

由紀子

進撃のごと海峡を春の潮                金山 哲雄

比喩がいいです(肇)。

順一

武蔵野や八重ゆたけくて濃山吹             岡崎 志昴女

山吹の中七が素敵です (幸子)

井の頭公園で山吹が見事に、しかも豊かに咲いているのを見かけました。まさにこの一句のようでした(律子)

朋子

燕来る掻き落とされし巣のあたり            土屋 尚

去年の巣を覚えて戻ってきた燕かもしれない。古巣を掻き落してしまった後ろめたさを感じながら見上げているような・・・。(ゆかり)

幸せを呼ぶと代々大切にされてきた燕の戸惑い。代変わりすると見る景だけれど、糞のための手作り台を見るとホッとします。(博子)

正明

三人の魔女の予言や春三日月              森野 美穂

魔女三人というと、あの小説?刃に似た三日月は不穏。でも春がつくと、もう一つの小説?…と想像が膨らみます。(博子)

若葉いま一人真中のかずら橋              阿部 朋子

橋の真ん中で足がすくんでしまったのか、あまりの若葉の美しさに橋上で一歩も動けなくなってしまったのか…… はて?(律子)

芦ノ湖の雨の明るさ青楓                金子 肇

数千年前の冨士山の爆発で生まれた芦ノ湖、今は人びとの美の象徴だ。雨に濡れた青楓が優しい。(茂喜)

明るい雨、がいいなと思いました。「あ」の韻も素敵です(美穂)

鰊食ふ小樽の御殿大広間                山本 純夫

博嗣、陽子

航跡の青きうずまき風光る               斎川 玲奈

航跡が青いうずをまいている姿が、「風光る」くっきりと浮かび上がってくる。(桂一)

清和なり父の癖文字新しき               金子 正治

お父様の字をどこで見られたのでしょう?「新しき」に懐かしさと、まだ、お父様が側にいると思えるのかもしれません。(向田敏)

ミャクミャクの出陣式や花の雨             森野 美穂

赤と青の五つ目キャラクターの醸すわくわく感が出陣式でよく表されいる(紀美子)

逃水を追ひ地の果てといふホテル            熊谷 佳久子

恭子、純夫

以上

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