天為ネット句会報2025年9月

 

天為インターネット句会2025年9月分選句結果

 ※特選句、入選句内の順番は互選点、句稿番号の順。
  また互選句は句稿番号順に並べております。

  <日原 傳編集顧問選 特選句>

防人の帰郷幾夜の天の川                佐藤 博子

防人は古代、筑紫・壱岐・対馬など九州北部の守備に当たった兵士。東国の出身者が多かった。『万葉集』には多くの防人の歌が収められている。任期は三年とされたが、それ以上務める者も多かった。掲句はその任を終えて故郷に帰る兵士に焦点を当てた。帰郷の途上、素晴らしい天の川を夜ごとに仰いだことであろうと想像をたくましくしたのである(傳)。

防人たちの望郷。郷で待つ者たちも見ているであろう今夜のこの天の川を、あと何度繰り返すれば帰郷がかなうのだろう(美惠)

津波くる静けさにあり海猫の声              斎川 玲奈

地震が起り、それによって津波が押し寄せるかも知れないという情報がもたらされたのであろう。津波が海岸へ到着するおおよその時刻が示されるが、津波自体の大きさは来てみないと分からないところがある。津波の到来を怖れつつ、それに備える静けさのなか、響きわたる海猫の声が印象的である(傳)。

  <日原 傳編集顧問選 入選句>

虫の音や奈落に木偶の首二つ              合田 憲史

舞台下の暗がりに転がっているでくの首、不気味ですね。(春野)

映画「国宝」の曽根崎心中のシーンが、この句の木偶とオーバーラップしました。(博子)

由紀子、志昴女、泰一、那智子

剥落の飛天に淡き秋ともし               熊谷 佳久子

秋ともしの淡い光に浮かぶ飛天の美しい姿を思います(美穂)

「剥落の飛天」と「淡き秋ともし」のコラボで雰囲気を作り上げている。(ユリ子)

玲奈、由紀子

虫すだく御陵は深き闇の中               内村 恭子

虫すだく季節御陵の静けさを感じます(夏江)

手鞠、由紀子、眞五

緩く反る湯宿の鮎の化粧塩               牧野 桂一

美味しさが伝わる句です。山女?岩魚?鮎? (郁文)

趣きのある湯宿を思い浮かべます(美穂)

「緩く反る」の描写が絶妙です。(敏晴)

白帝城夢みて朱鷺の飼はれをり             熊谷 佳久子

絶滅貴種の朱鷺、育つと良いですね(早・恵美子)

志昴女、玲奈

秋澄むや金の御紋の儀装馬車              中川 手鞠

各国大使の信任状捧呈式にも使用される皇室の儀装馬車。金の紋章が秋空に映える様が美しい。(博行)

きりっとした空気感、目の前に景が立ち上がってきます。たまむし

史子

終戦日母の愛せし伊予絣                中村 光男

終戦の日。母の来ていた伊予絣、藍の先染めの木綿絣を箪笥の奥から静かに取り出して広げる。(茂喜)

戦時中お母さまはかすりのモンペで戦火をくぐり抜けたのですよね。藍染の香とお母さまの重ね合わせに感服。(伊葉)

日記

ゆたけしや富士の吐き出す秋の水            小栗 百り子

ダムが渇水の今日。富士山はお腹にたっぷりと水を貯めており、しかもつめたーい正に秋の水。(郁文)

富士の水の量を表すの上5が効いて水の勢いを感じます。(相・恵美子)

今朝の秋光ついばむ群雀                岡部 博行

朝の光に秋を感じそれを敏感に感じる鳥たちも自然と集まってくる、そんな新秋の光景が浮かびました(律子)

手鞠

芋虫の一心不乱パセリ食む               井上 澄江

手鞠

高原の草田男句碑や赤蜻蛉               森山 ユリ子

澄江

仮面神ボゼひと暴れして送り盆             芥 ゆかり

お盆の最後に現れるボゼは村人を守ってくれるとか、ユニークな行事と思う。(博美)

秋夕焼け町は影絵となりにけり             佐藤 律子

正明

熱沙ゆく駱駝隊列鳴沙山                鈴木 楓

私も熱沙の中ではなかったのですが、鳴沙山で駱駝に乗ったので、なつかしく思いだしました。(佳久子)

秋めくや刺繍枠もて張るリネン             町田 博嗣

自画像の静かなる目や秋に入る             須田 真弓

 <互 選 句>

向日葵の迷路掛け合ふ子等の声             染葉 三枝子

元気よく駆け廻る子等の様子に、元気を貰います(智子)

水澄むや大シャコガイの手水鉢             松山芳彦

純夫

朝顔に玄界灘を渡りし日                伊藤 正規

朝鮮朝顔でしょうか 玄界灘と聞けば、帚木蓬生の「三度の海峡」を思いました。(美惠)

韓国の国花「木槿」は「蕣」とも言われたらしい。玄界灘にまつわる歴史を想像しています。(博子)

坂道を登る老いの身蝉しぐれ              嶋田 夏江

ずっと暮してきた坂の街。登る降るを繰り返し。(正規)

色紙には恩師の言葉盆の月               森野 美穂

私の場合には「句集には」になりますが。(孝雄)

ガザの子に届かぬ物資秋の風              髙橋 紀美子

本当に…秋風が冷たく感じられます(美穂)

忘ること忘れざることつくつくし            鈴木 楓

切ないけれど、忘れていない事を会話に繰り返し。(正規)

孝子、那智子、夏江、眞五

踊の輪知らぬ同士がのりのりに             冨士原 博美

曲に乗り体を動かす それだけでみんな和やかに(久丹子)

盆踊りでしょうか、音楽に合わせて身振り手振りと自然と身体が動きます(智子)

殉教の島へ朱の橋空高し                たまむし

陽子、真弓

くるくると水の地球の梨を剥く             西脇 はま子

梨のあのみずみずしさを「水の地球の梨を剥く」と表現していることに感銘。大分の庄内梨がいままさにこんな感じ。(桂一)

「幸水」も「豊水」も水の惑星地球が育んだもの。(肇)

「水の地球の」と形容されると梨の瑞々しさが際立って感じられる。(ゆかり)

何とも瑞々しい梨で、おいしそうですね。(佳久子)

梨のみずみずしさを「水の地球」と表現したところが素晴らしい。(ユリ子)

瑞々しい梨の感じと、水の地球との対比。興味深い詠み方だと思いました。(順一)

陽子、史子、恭子、楓、三枝子、日記、匠子

風紋を一刷けしたる秋の浜               日根 美惠

朋子

爪磨く美白男子や涼新た                宮川 陽子

上5と中7に季語が相応しく美白男子の小奇麗さを感じます。(相・恵美子)

猫一匹通ることなき炎暑かな              上脇 立哉

今年夏は大変な猛暑でした。実際は一匹ぐらいはいたかもしれませんが、猫一匹もいないと表現しところ上手い句になりました。(芳彦)

正明

立秋に呼ばれたやうに通り雨              冨士原 博美

紀美子

耳の底に夜の水音や葛の花               明隅 礼子

博嗣

遠雷や早々終う庭球部                 榑林 匠子

雲が夏空に勢いよく伸びると電光が走り、雷鳴が始まる。何はさておき皆、校舎に入ろう。(茂喜)

熱中症警戒アラート終戦日               佐藤 博子

立哉、孝子、尚

サイダー好き賢治も夫も一教師             荒木 那智子

仲良きことは美しき哉、ですよね(誠治)

夫もで作者の愛情ある優しい眼差しを感じることができる良い句  (余慶)

朋子、玲子

友コロナ又もや闇の秋はじめ              齋藤 みつ子

友がコロナになったそうで、この秋もコロナが蔓延するのでは心配することよくわかります。(芳彦)

蓼の花道のほとりの道祖神               垣内 孝雄

澄江

麦とろや遊び仲間と永らえて              荒川 勢津子

遊び仲間とのひととき、良いですね。(孝雄)

香誉子

気がつけば我身なりけり生身魂             土屋 尚

おめでとうございます。これからはこういう人が多くなります。(肇)

三枝子、紀美子、純夫

イエス売る銀貨三十枚ほどの涼             西脇 はま子

真弓

森羅万象屋根に胡桃の落つる音             髙橋 紀美子

きんつばの透ける薄皮十三夜              中川 手鞠

十三夜は別名豆名月。薄皮を通して月光がきんつばの小豆あんまで届いている。(肇)

月見に透けるきんつばを飾り所望する、十三夜ときんつば栗名月が楽しい良い句。(余慶)

きんつばの薄皮と十三夜の雰囲気が合っている不思議(敏晴)

季語の扱いが上手ですね(早・恵美子)

玲子、匠子

花立を濯いで干して残暑かな              森野 美穂

お気に入りの竹製の花立かも、秋を感じさせそして丁寧な生活がうかがえる。句にリズム感もあり清々しい。(伊葉)

秋旱気の入らない畑仕事                竹田 正明

志昴女

愚者賢者隣り合わせて銀杏散る             鹿志村 余慶

眞五

阿波踊あの世この世は脇に措き             金山 哲雄

阿波踊りのあの盛り上がりは、まさに「あの世この世は脇に置」いている感じ。この表現は阿波踊りにぴったり。YouTubeでいつも見ているが、そのたびにこの句が浮かんでくる。(桂一)

人生を注ぎ込んでいる人たちを、ちょっとだけ斜めから見てるけど、十分に共感もしているバランスを感じました(誠治)

雑念を払って一心に 踊りの醍醐味(久丹子)

今宵一夜だけでも、踊る阿呆になり切りましょう(憲史)

秋夕焼痕跡本の蔵書印                 石川 由紀子

秋の夕焼けは淡い、前の持ち主の痕跡が微かに残っている蔵書印からどのような方だったのかと思いつつ繋がりを感じる。(博美)

雅司

満月や大道芸の輪を照らす               原 道代

泰一

絵タイルの青き魚や大西日               中村 光男

陽子

万歳の声千切れゆく敗戦忌               野口 日記

道代

しょの夢目覚めて空に月天心              松山芳彦

長いお昼寝でしたね。それだけ秋らしくなってきたということでしょう(律子)

理想郷で遊んだ夢のあとの夜空は、かがやく満月。黄帝の心地の一夜・・・。(博子)

河骨や友と分け合ふ今日の風              野口 日記

「友と分け合ふ」ところに、河骨が魅力的に見える原因があるのでしょう。(順一)

朝靄や吾子とり上げるごと玉菜かな           宮川 陽子

道代

大西日鰊景気の名残りの澗               斎川 玲奈

季語が相応しく、かつて鰊漁で活気づいた澗の様子が偲ばれます。(相・恵美子)

「ただいま」の代はりに開ける冷蔵庫          木村 史子

この猛暑。冷たく冷えた飲み物にまず、、、よく景が。句のリズムもいいですね。(郁文)

育ち盛りの子どもの姿が生き生きと浮かび上がってくる。このような句に出会うと命が延びそう。(桂一)

「ただいま」の代わりに、冷蔵庫を開ける気持ちがよくわかります。(芳彦)

香誉子、恭子

蓮の実の飛んで敦煌千仏洞               たまむし

時空を飛び越えるスケールの大きさ(敏晴)

三枝子、百り子、玲子、日記、春野

仏壇の九月の今朝の薄埃                金山 哲雄

泰一

新学期一人ひとりに秋の風               中島 敏晴

酷暑納まらぬ内の新学期でも子供達の生き生きした様子が涼しさを運んで来る ふみ

哲雄

月仰ぎ万古の想ひ酔李白                山根 眞五

詩仙李白は詩と酒を愛し、水中の月をとらえんと水に飛び込み帰らぬ人となった、と伝わる。(茂喜)

風流な中国絵画の世界。 ふみ

水子仏苔の衣に包まれて                今井 温子

苔の柔らかさに包まれている様子が、いいですね。(佳久子)

私はと繰り返す人秋暑し                土屋 香誉子

自己顕示欲の強すぎる人は確かに残暑のように暑苦しい。季語の斡旋が見事。(博行)

秋は暑いまま終わりゆくのでしょうか。(正規)

いるいるこういう人!と思いながら‥‥心地よい会話には不要かもしれません(律子)

幕間の椅子に扇子の留守居役              郁文

肩肘張っている扇子に、笑ってしまいました(誠治)

涼しげな和服の女性、いや男性かも、扇子を置いて中立ちとは粋ですね。ふみ

道代

たまゆらの今生の縁いわし雲              荒川 勢津子

玲奈

山荘を閉づれば萩の咲きこぼれ             森山 ユリ子

間もなく厳しい冬がやって来る。萩も今が真っ盛りか(憲史)

木洩れ日に笑む地蔵にもある残暑            岡部 博行

地蔵にもあるで作者の立ち位置が見えている佳い句  (余慶)

夏江

秋風の台上に牛眠りけり                伊藤 正規

シンプルな仕立ての句、台上に・・・で北野天満宮の牛のような堂々とした牛を想起させながらさわやかさもある。(伊葉)

籠買うて鈴虫を分け入れるかな             鹿志村 余慶

鈴虫は特別扱いのようだ。籠を買ってまで「分け入れる」が眼目。音色が楽しみである。(ゆかり)

カンナ炎ゆ無人駅舎の片隅に              合田 智子

勢津子

水撒くや考の庭木の良く育ち              山本 純夫

蒲の穂や病院前の小さき池               井上 澄江

小さな池に蒲の穂が育っていたのかもしれません。(順一)

月天心慣れし杖から車椅子               郁文

杖の生活から車椅子の生活への変化を清々しい心で、素直に受け入れられたのですね。(哲雄)

香誉子

新秋や浅草車夫の黒光り                児島 春野

黒光りが良いと思います。(百り子)

勢津子

豊の秋焼く煮る揚げる万能鍋              相沢 恵美子

万能鍋が良いですね!いっぱい召し上がって下さい!(早・恵美子)

食欲の秋です。万能鍋が大活躍です(智子)

勢津子

二百十日やこの螺子はどこの螺子            芥 ゆかり

このぐらいのスパンになるとこういう事もありあり(久丹子)

恭子

村芝居立役終へて村長さん               合田 憲史

匠子

つながれし牛の目淀む残暑かな             相沢 恵美子

孝子

夜半の秋古地図に遊ぶ江戸の町             金子 肇

楽しそう‥・ゆたかなお心持を感じました。たまむし

秋の夜のしみじみとした感じが伝わって来る。(博美)

雅司、楓、 那智子、澄江

天平の女帝の系譜月涼し                鳩 泰一

史子、立哉

稲光互ひ違ひのピカソの眼               早川 恵美子

キュビズム時代のピカソの描く互い違いの眼とジグザグの稲光の取り合せが独創的で納得感がある。(博行)

ピカソの絵に向けられた作者の視点と季語の取り合わせに惹かれました。たまむし

キュビズムのピカソの絵 稲光を想われたのは素晴らしい(美惠)

「ピカソの眼」と稲光が響き合ってますね。(哲雄)

ピカソが多視点から捉えた人物の眼。互い違いという措辞が稲光と呼応して効果的だ。(ゆかり)

ピカソの互い違いの目のあいだに走る線は、たしかに稲妻のようですね。素晴らしい表現。(ユリ子)

神がかっているものの対象と思います。(百り子)

雷が落ちて引き裂かれたようにも思えるピカソの絵です。(春野)

立哉、博嗣、真弓

角曲がる度すれちがふ赤とんぼ             土屋 香誉子

朋子、正明、純夫

秋の蚊や声柔らかき古書店主              児島 春野

懐かしい「古本屋」さん。お世話になりました。(孝雄)

鎌倉周辺の古書店かしら?穏やかな店主が弱弱しい蚊と会話しているよう(憲史)

博嗣

アンニョンの飛び交う町や夏惜しむ           永井 玲子

雅司、紀美子

以上

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